脱炭素やデジタルトランスフォーメーション(DX)、経済安全保障など、企業の経営環境には大きな波が押し寄せている。いずれの分野も官民連携が欠かせず、規制や政策の方向性をつかんでおかなければ適切な経営判断はできない。本連載は、日本経済や企業経営に大きな影響を与える政策について、実務を担当する霞が関の官僚や政治家に聞いていく。

 初回のシリーズは日本のエネルギー戦略。国際的なエネルギー相場の高騰が続く中、輸入に頼る日本は難しい状況が続く。特に発電の4割を担う液化天然ガス(LNG)は、電力需給が逼迫する昨今において存在感を増している。政府は調達戦略をどう描くのか、キーマンである経済産業省資源エネルギー庁の早田豪石油・天然ガス課長に話を聞いた。

ウクライナ危機を受けたエネルギー関連の資源価格高騰は、日本にどれほどの影響を及ぼすのでしょうか。

早田豪・経済産業省資源エネルギー庁石油・天然ガス課長(以下、早田氏):原油価格が1バレル100ドル前後で推移しており、1年前に比べてほぼ2倍となっています。当然ながら、ガソリン価格に反映されるだけでなく、電力・ガス価格にも影響を与えます。液化天然ガス(LNG)輸入の8〜9割は原油市況とリンクしているためです。原油相場の上昇はすぐに反映されるわけではありませんが、徐々にLNG輸入単価を押し上げます。

 しかも現在、日本の電力のうち4割はLNGで発電する火力発電所で賄っています。電気代やガス代もじわりじわりと上がってきており、今後、原油価格やLNG価格がどこまで上がっていくのか、大変心配しています。

早田 豪 氏
早田 豪 氏
1997年東京大学文学部哲学科卒、通商産業省(現経済産業省)入省。米エモリー大学ビジネススクール留学、通商政策局国際経済課長補佐、石川県庁産業政策課長、大臣官房総務課長補佐、ジェトロNY産業調査員などを経て、2019年7月に資源エネルギー庁長官官房国際課長。同年12月から同庁資源・燃料部石油・天然ガス課長を務める。(写真=的野弘路、以下同じ)

ロシア産原油への国際的な制裁は市況にも影響を与えるのでしょうか。

早田氏:米国より、ロシア産石油の取引についてプライスキャップ(価格の上限)を設けるという提案があり、6月末の主要7カ国首脳会議(G7サミット)において、それを検討していくことが合意されました。ロシアに対する追加制裁として、ロシアの原油収入を減らしていくことが目的ですが、その一方、プライスキャップより安い価格で原油を輸入する場合は原油輸送船への海上保険なども認めています。一定数量のロシア産石油の取引を維持し、さらなる世界的な石油価格の高騰を防ぐとしています。

 一方で、メディアや識者からは様々な課題が指摘されています。最大の課題は、ロシアがこのスキームに応ずるか否かです。例えば、仮にプライスキャップをかける水準を1バレルあたり50ドルとします。あるバイヤーが「プライスキャップ制度が導入されたので、1バレル50ドル以下でないと買えなくなった」とロシアに通知したとき、ロシアが素直にそれに応じるかという問題です。

 また、抜け道を防げるかという問題もあります。もし50ドル以下ではロシア側が売りたくないと言ったとき、例えば60ドルなら買いたいという輸入国が現れて、抜け道的に取引が成立したら、プライスキャップ制度は機能しなくなるとの指摘もあります。ロシアと結びつきの強い中国やインドは、これまでロシア産石油の輸入を増やしています。

 特に、インドは従来に比べて約9倍のペースで輸入していますが、インドの財務大臣は「インド経済にとって、割安な石油を購入するのは最善の手段」と正当化しています。今回のプライスキャップが想定通りの効力を発揮するには、全ての輸入国が賛同し、抜け道がない状況を作り上げることが必要です。

LNGについて、ロシアの資源開発事業「サハリン2」で日本の商社が持つ権益をロシア側が認めないリスクも浮上しました。

早田氏:日本のエネルギー自給率はわずか11%で、経済協力開発機構(OECD)加盟の35カ国中34位、そしてG7の中では最低です。これだけの先進国・経済大国で、こんなにエネルギーを他国に依存している国は他にありません。例えば、石油は99.7%を輸入し、うち90.3%は中東からです。

 1970年代のオイルショック以降、「中東に過度に依存する状態から脱却し、エネルギー供給源の多角化を図る」という政策を進めてきました。それでも中東依存度はいまだに90%を超える水準になっています。

サハリン2から到着したLNGタンカー(写真:共同通信)
サハリン2から到着したLNGタンカー(写真:共同通信)

 そんな中でサハリンプロジェクトというのは、ホルムズ海峡に依存せずに、中東以外から石油とLNGを輸入できる、当時は画期的なプロジェクトでした。まさか、ロシアが今のような状況になるとは、当時は誰も想定していなかったでしょう。

 一方、LNGはオーストラリア、マレーシア、カタール、米国などと調達先の多角化を着実に進めてきた結果、中東依存度は約16%となり、十分にリスクは分散できたと言えるかもしれません。このような中、日本はロシアから600万トンと日本の輸入量の約9%のLNGを輸入し、そのほとんどがサハリン2からです。わずか9%と思われるかもしれませんが、今回のロシアのウクライナ侵攻で世界的なLNG需給がさらに逼迫する中、この9%を失うと、日本の電力・ガス会社は(代替手段として)スポット市場から現在の3~5倍の値段を払ってLNGを調達するしかなくなります。それがどれだけ電気料金・ガス料金に影響するか、極めて事態は深刻です。