これまで4回にわたって、現在が「行動の時代」であること、そこでは新規顧客獲得偏重から脱却してグロース(ユーザーの体験を改善し、サービスを成長させるための取り組み)に投資をし、体験提供型のバリュージャーニーを実践することが必要だと説明した。

 実際にビジネスモデルを体験提供型に変えていくためには、2つのことが必要になる。まず1つ目は、行動データを基に顧客の状況を理解し、既存接点を改善していくこと。これをUX(顧客体験)グロース業務と呼ぶ。2つ目は、新たなデジタル技術を活用した接点でジャーニー(旅)を伸長することで、米アマゾン・ドット・コムの「Amazon Go(アマゾン・ゴー)」、Zホールディングスとソフトバンクの「PayPay(ペイペイ)」などの展開は、これに当たる。

体験提供型に変えるために必要な2つの活動
体験提供型に変えるために必要な2つの活動
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 この3年でデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みは活発化した。だが、新たなサービスを生み出したにもかかわらず、十分なリソース(資源)が投下されずに成長に至らず、結果、終わってしまうケースが多い。これは、上図の②の領域だけに取り組んでいる結果と捉えられる。

 DXというと、新しい事業づくり・接点づくりというところに目が向いて、②の領域にばかり注力してしまうケースが多い。しかし、これまで説明した通り、これからの時代に重要なのは①の活動。いかに寄り添い型のジャーニーを運営できるかだ。

 特に、今の時代は市場や環境の変化が激しく、類似サービスが出てきたり、そもそもニーズがなくなったりといったことが起こり得る。そういった中では、サービスも常に更新を続けていく必要がある。圧倒的なユーザー数を抱える「Facebook」や「Instagram」「メルカリ」「LINE」などを見ると、彼らはサービス提供開始からずっと、顧客接点からのデータに基づいてサービスを育て上げていくという、上図の①の活動を続けてきているのだと気付く。

 日本企業の多くは世界でも通用するようなレベルのモノをつくる。ものづくりの過程ではユーザーに対する理解、ユーザーの体験をつくり出すために心血を注ぐ。だが、メーカー的思考が抜けておらず、一度でも製品やサービスとして世の中に出た後は、すぐに次の企画に取り掛かってしまう。リリースした製品やサービスに関わるUXを磨こうという意識は働かない。

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