前回「米ナイキが無料アプリに注力する真意」では、体験提供型のダブルループモデルについて、ナイキのランニングアプリ「ナイキ・ラン・クラブ(NRC)」を例に説明した。ナイキのような成功企業がある一方で、多くの企業はまだ広告や新規顧客獲得に偏重している状態が続いている。
上図の左側の獲得ファネルを広げるような活動に多くのヒト・カネが投下されているケースが多く、中にはCRM(顧客情報管理)に力を入れている企業があるものの、それも右側のダブルループというよりは「何度買わせるか」に力点が置かれているのが現状だ。
実際にマーケティングに関わっていると実感しているかもしれないが、広告効果や新規顧客の獲得には限界が見え始めている。日本は特に人口減少が続いており、見込み顧客のパイは減る一方だからだ。加えてマーケティング手法も成熟してきているため、ROI(投資対効果)も悪くなっている。さらに、サードパーティーデータ(プラットフォーマーが収集してセグメント化したデータ)の広告への利用規制の影響で、トラッキング広告をはじめとする従来手法も、成果を出しにくくなっている。
その一方で、時代としてはこれまで見てきたように、右側のダブルループのモデルがつくりやすい時代になっている。「うまくつくれれば」という条件付きにはなるが、投資すればある程度の成功が見込めるダブルループのモデルがあるにもかかわらず、現在の投資はその多くが限界が見え始めている広告・獲得に費やされている。
上図は、ダブルループモデルの獲得ファネル(漏斗)部分と2つのループを分解して並べたもの。多くの企業では、ヒトもカネも9割近くが顧客獲得に割かれていて、残りの1割をオンボード(ユーザーがサービスの上にスムーズに乗れる・なじめるようにするための取り組み)とグロース(ユーザーの体験を改善し、サービスを成長させるための取り組み)で分けているような状況が見られる。新規顧客獲得の限界が見え始めていることも、グロース領域に大きな可能性がありそうだということも、感覚的には分かっているのに手を打てていない、というのが実情ではないだろうか。
このようなあまりにも偏った比重は変えていかないといけない。図中の2:3:5というのはあくまでイメージなのでこの通りにしなくてはならないというわけではないが、少なくとも獲得偏重の広告中心マーケティングは限界が見えているので、右側のグロース側への注力が急がれるというのが、ここでの大きなメッセージだ。
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