現在が「行動の時代」を迎えていることは本連載の初回に述べた。そこでは顧客体験価値が「行動データと行動支援を通じた成功体験の実現」になっていること、企業は戦略からUX(ユーザー体験)を考え、体験を提供してジャーニー(旅)の上に乗り続けてもらう「バリュージャーニー」の実践が重要であると説明した。

 だが、UXの重要性を理解しても落とし穴はある。ビジネスや思考回路が従来の製品販売型のまま、バリュージャーニーを実践しようとすると危うい。

 製品販売型、つまり売り切り型の収益モデルを前提とすると、顧客にプロダクトやサービスを購入・契約してもらった段階でビジネスゴールは達成されている。収益は既に確保されているとみなされるためだ。

 そうすると、その後に続く顧客接点は「アフターフォロー」としてしか捉えられず、仮にそこが重要だと分かっていたとしても、なるべく投資を抑えたいという話になりがちだ。つまり、そこに投資すればするほど全体の利益率を下げると考えてしまう。結局のところ、バリュージャーニーといってもアフターフォロー、保守運用のレベルにとどまってしまうのだ。

ナイキが注力する「ナイキ・ラン・クラブ(NRC)」

 製品販売型で考えると⼀⾒利益につながらなさそうに⾒えるところに投資し、成功している例として米ナイキのランニングアプリ「ナイキ・ラン・クラブ(NRC)」がある。

 NRCは無料でダウンロードでき、課金モデルにもなっていない。さらに、ランナーのウエアやシューズが全てアディダスであっても使えるという、従来の製品販売型の考え方からすると意味がなく、売り上げにも貢献しないと批判されそうなアプリだ。だが、実際、ナイキはこのアプリにかなりの投資をしている。なぜナイキはNRCへの投資を惜しまないのだろうか。

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この記事はシリーズ「アフターデジタル著者が語る「行動の時代」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。