株価上昇が覆い隠した「コスト削減の負の側面」
羽生田:この10年は「奪う側」と「奪われる側」の間で富の移動が行われただけで、全体の富は増えていない。結果として、利益5倍で売り上げ1.1倍というゆがんだ世界ができていきました。例えば、働く人の賃金は上がらず、日本の平均賃金は15年に韓国に抜かれ、主要7カ国(G7)ではイタリアに次いで低い状況です。
また、企業のサプライチェーンはダイエットをしすぎて不健康な状態になり、あちこちに不調が生じやすい状況になり、人権に関するリスクも高まっています。
ところが、この期間に企業の株価は上がっていった。これで「コスト削減の負の側面」が見えにくくなった面があります。企業の利益が5倍に増えているのだから、株価が上がるのは当たり前です。そこだけ切り取れば「いいじゃないか」と思えるのですが、実際には富が増えない中で弱者から強者へ富を移動させているだけであり、そこにさまざまな犠牲や「負の外部性」が生じています。
斎藤:私の周りで、日本における外国人技能実習生の問題に取り組んでいる総合サポートユニオンという労働組合があります。彼らの報告によると、企業の中には、外国から来た労働者からパスポートを取り上げ、移動の自由を奪い人権を踏みにじっているところもあります。
私も同行した争議の案件では、ある女性労働者が生活している寮に朝いきなり、会社側の人間が入ってきて、その労働者を無理やり車に乗せて、カンボジアに送り返してしまった。本人の同意は一切取っていません。会社でいらなくなったから、無理やり本国に送り返されたわけです。その女性がもし、日本の会社に対して抗議しようとしても、日本側につてもないですし、泣き寝入りするしかない。そういうことが、今の日本でも普通に行われています。
羽生田:米国の国務省は、昨年に引き続いて今年も日本の外国人技能実習生について「強制労働」や「人身売買」と表現する非難の声明を出しており、かなりの異常事態が起きているんです。
斎藤:この争議は、誰でも名前を知っている有名コーヒーチェーンに商品を卸している食品製造会社での話ですよ。実は、私たちのかなり身近なところにまで、奴隷的な労働が入り込んでいます。食品の製造とか、洋服に「メイド・イン・ジャパン」と書いてあっても、実際に作業しているのは外国人ということも少なくない。外国人技能実習生も含め、日本には、ありとあらゆるところに外国人たちが入ってきていて、その人たちの労働がなければ、もはや今の経済は成り立たない状況です。
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