8月2日夜、ペロシ米下院議長が台湾を訪問した。この動きに対して中国は猛反発。台湾周辺での大規模な軍事演習や経済制裁に踏み切った。強硬姿勢を貫く習近平政権の思惑とは。
「この醜悪な茶番劇において、民主主義はただのツールにすぎない。ペロシ氏は見世物にしたのかもしれないが、被害を受けているのは両国関係と地域の平和と安定だ」。中国外務省の華春瑩報道局長は8月3日の記者会見で、ペロシ米下院議長の台湾訪問を痛烈に批判した。
8月2日夜に台湾を訪問したペロシ氏。翌3日には台湾の蔡英文総統と会談し、「台湾の自由を守る米議会の決意を示した」との声明を出した。1泊2日の弾丸日程での台湾訪問を終え、次の外遊先である韓国へと飛び立った。

「火遊びすれば必ず自らの身を焦がす」
中国政府は、ペロシ氏の訪台が表面化した7月下旬以降、米国に対して計画の見直しを迫っていた。7月28日に開催された米中首脳による電話会談では、中国の習近平国家主席が米バイデン大統領に対し「火遊びすれば必ず自らの身を焦がす」と発言。中国外務省の趙立堅副報道局長も8月1日の記者会見で「中国人民解放軍は決して座視しない。必ず断固として強力な報復措置をとる」と強調した。中国共産党系メディアの環球時報の胡錫進前編集長がペロシ氏の訪台を「排除できないなら搭乗機を撃ち落とせ」とツイート、その後削除するなど“場外乱闘”も起きたほどだった。
だが圧力に屈せずペロシ氏が台湾訪問を強行したことで、中国政府は猛反発。訪台が伝わった直後の2日深夜に外務省や国防省などの複数機関が一斉に非難声明を発表した。外務省は「中米関係の政治的基礎に重大な衝撃を与え、中国の主権と領土保全を侵害し、台湾海峡の平和と安定を深刻に破壊し『台湾独立』分裂勢力に極めて誤ったシグナルを送った。中国はこれに断固反対し、厳重に非難する」と主張。米国のニコラス・バーンズ駐中国大使を呼び出して抗議した。国防省も「高度に警戒警備し、一連の軍事行動で対抗する」との声明を出した。

実際、対抗措置も矢継ぎ早に打ち出している。中国人民解放軍は2日夜から台湾周辺で合同演習を開始。4日から7日にかけては、台湾本土を取り囲む6カ所での軍事演習を進める予定だ。経済制裁も進めており、商務省は3日、台湾向けに天然砂の輸出を止めると発表。税関総署も同日、台湾からのタチウオや冷凍アジ、かんきつ類の輸入停止を打ち出した。
中国国内での関心も極めて高い。中国共産党機関紙の人民日報などは、外務省が2日に公表した公式声明の全文を公表。国営メディアの新華社通信は、台湾周辺での軍事演習について場所を詳細に記した地図とともに伝え、中国国営中央テレビ(CCTV)も軍事演習の映像を大々的に流している。国営メディアのほとんどは中国政府の声明や対抗策をつぶさに伝えており、中国検索サイト大手の「百度(バイドゥ)」や中国版ツイッターの「微博(ウェイボ)」の3日におけるホット検索ワードでは上位をほぼ独占した。
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