日経ビジネスは2023年1月16日号で「チャイノベーション2023 中国 技術覇権の今」と題した特集記事を掲載した。EV(電気自動車)や半導体、プリンター、工作機械、医療機器など、日本企業が関わる分野で中国の技術力や競争力を分析。EVでは新興企業が勃興し、市場での存在感が高まっている一方、半導体では米国の輸出規制が強化され、最先端の製造技術の開発が困難になるとの見方もある。

こうした中国のEV、そして半導体の動向を深掘りするため、日経ビジネスLIVEでは、特集に登場した2人の専門家を講師に招いたウェビナーシリーズ「中国、技術覇権の行方」(全2回)を実施した。

4月5日の第2回のテーマは、「深刻化する米中半導体対立、日本企業へのインパクト」。登壇した英オムディア(インフォーマインテリジェンス)でシニアコンサルティングディレクターを務める南川明氏は、1990年から世界のエレクトロニクス市場の分析・予測に従事。その経験を踏まえ、米中が対立する中での半導体市況の行方と日本への影響について語っていただいた。

(構成:森脇早絵、アーカイブ動画は最終ページにあります)

佐伯真也・日経ビジネス上海支局長(以下、佐伯):本日は「技術覇権の行方」シリーズの第2回です。「深刻化する米中半導体対立、日本企業へのインパクト」と題して、英調査会社オムディアでシニアコンサルティングディレクターを務める南川明さんに講演していただきます。

南川明・オムディア シニアコンサルティングディレクター(以下、南川氏):本日のテーマは「深刻化する米中半導体対立」です。ここ2年ぐらい米中摩擦が活発化しており、中国側のリアクションがどうなるかによって状況は変わってくると思うのですが、その辺りも含めてお話しします。

 電子機器や半導体分野での中国の躍進は著しく、このままでは米国は、テクノロジーの面でも追い越されてしまいます。AI(人工知能)関連でも、特許件数で中国が一番多く、何とかしなければいけないというのが今の米国のスタンスです。そこで米政府は脱中国に向けてかじを切りました。米企業に向けて、「中国での製造を他国に移してください」という話をし始めています。

 もう1つ重要なのが、ドルの強さが際立ってきていることです。米国のGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック(現メタ)、アマゾン、マイクロソフトの総称)がリストラクチャリングをしていますし、最近ではシリコンバレーバンクの破綻もあり、経済は少しスローダウンしてきています。ただ、ドルは非常に強い力を持っていて、ドルの一人勝ちによって、米国に世界中の資金が集まり始めています。従って、これからGAFAMへの投資が再開されることが十分期待できます。

 そうした米中摩擦の中での日本のポジションが注目を浴びています。特に製造設備や装置、材料などはまだ強く、米国にとって最大のパートナーは日本です。

 台湾積体電路製造(TSMC)も重要ですが、いずれ中国に取り込まれてしまう可能性があることを前提に、米国は動き始めています。その点では強いサプライチェーン(供給網)、強い半導体の基礎技術が日本にないと(米国が)困ります。日本にTSMCが来ることや、米IBMがラピダス(東京・千代田)に協力すること、ベルギーのIMEC(アイメック)が日本に協力する体制ができあがりつつあることなどは、全部米国のシナリオです。

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 従って、米中の覇権争いの中で我々はどう動くかをちゃんと考えなければなりません。22年10月7日、米国が対中国輸出規制を強化しました。ポイントは、記憶用半導体であるDRAMとNAND型フラッシュメモリーです。

 これらのメモリーの製造は、中国国内では、拡張したりアップグレードしたりすることがほぼできなくなります。私も韓国サムスン電子やSKハイニックスの関係者と話し合いをしていますが、彼らは、「もう中国の工場はこれ以上拡張できないし、したとしても、いつ米国がもっと厳しい措置を取るのか分からないので、あきらめざるを得ない」と考えています。

 サムスンは、韓国に巨大な工場を造ると発表しましたが、日本にもメモリー工場を持ってくるかもしれない。そうした検討をしている状況です。

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