日経ビジネスは1月16日号で「チャイノベーション2023 中国 技術覇権の今」と題した特集記事を掲載した。EV(電気自動車)に半導体、プリンター、工作機械などで中国の技術力や競争力を分析。EVでは新興企業が勃興し、市場での存在感が高まっていることを報じた。
日経ビジネスLIVEでは、特集に登場した2人の専門家を講師に招いたウェビナーシリーズ「中国、技術覇権の行方」(全2回)を実施。3月14日開催の第1回のテーマは、「特許分析であぶり出す中国EV勢の脅威」。登壇したのは、特許分析を手掛ける知財ランドスケープCEO(最高経営責任者)の山内明氏だ。大手メーカーでの開発業務や特許事務所を経て、シンクタンクで知財コンサルティングの業務に従事した経験などを基に独自分析した知財データを基に講演いただいた。
(構成:森脇早絵、アーカイブ動画は最終ページにあります)

薬文江・日経ビジネス記者(以下、薬):ウェビナーにご参加の皆様、こんばんは。本日は「中国、技術覇権の行方」シリーズの第1回です。「特許分析であぶり出す中国EV勢の脅威」と題して、EV大国への道を突き進む中国EVメーカーの研究開発や物づくりを支える取り組みの実態について、知財ランドスケープCEOの山内明氏にお話しいただきます。山内さん、本日はよろしくお願いいたします。
山内明・知財ランドスケープCEO(以下、山内氏):よろしくお願いします。

薬:世界のEV市場では米テスラに続いて、中国のBYD(比亜迪)が販売台数でかなり追い上げています。中国EV勢については、3つのテーマに分けてお話しいただきます。まずは、テーマ1「EV特許の出願数、中国勢が多数」です。
山内氏:グローバルのEV関連の特許出願数トップ21社を見ると、筆頭が中国で、21社中の8社を占めています。トップ30まで見ると、ほぼ半数が中国勢です。
上の図で取り上げた母集団は私が設定していて、新型コロナウイルス禍が勃発した2020年3月より前の1年半と直近1年半の計3年間を前半、後半に分けてデータを取りました。このデータを見ると、かつてはたくさんEV特許を出願していた欧米や日本勢の存在感が薄まってきていることが分かります。
コロナ禍でもEV分野で存在感を増す中国勢
山内氏:中国勢が圧倒的な存在感を示しているわけですが、顔ぶれにもご注目ください。中国には、躍進中のBYDがあり、世界トップ5くらいに上がってきています。中国での新車販売台数では、ついにテスラを超えました。加えて、22年末から日本に対する輸出を開始し、二重の意味で話題です。トップ21の顔ぶれを見ると、BYDは、トヨタ自動車、現代自動車(ヒュンダイ)、ホンダに続く4位であり、中国勢では最上位です。特許出願数の点でも注目度が高いと言えます。
中国勢はBYDのほかに7社あります。例えば、オウルトン(Aulton、奥動新能源汽車科技)。EV用の電池は、普通はケーブルを挿して充電します。ワイヤレス充電もありますが、オウルトンが手掛けるのはそういった充電サービスではありません。フル充電した電池をあらかじめ用意し、ステーションで交換するという電池交換タイプのサービスです。日本ではほぼ知られていないのですが、重要なプレーヤーがトップ21に位置していることを覚えていただきたいと思います。
エスボルト(SVOLT、蜂巣能源科技)という会社は電池専業のメーカーで、比較的新しいスタートアップです。SGCC(中国国家電網)は、従来型の充電インフラ事業の会社で、配送電の最大手。これら4社を見ても、中国はEVという商材を全方位から支えている様子が分かります。
中国以外の国は基本的に自動車メーカーやメガサプライヤーなどが中心。電池専業や電池交換、充電インフラなどの(中国系でない)会社は皆無で、いかに中国が特質性を持っているかが分かります。
上の図は、今回の母集団設定の肝です。コロナ禍の前後、1年半ずつを比べ、ビフォー・アフターでの特許出願件数の伸び率を示しました。日本勢は、伸び率がマイナス20%と顕著に下がっています。景気後退でコスト削減を迫られたとき、真っ先に削られるのが研究開発費です。特許出願などのコストは研究開発費の1割を当てるという暗黙のルールがあるので、その経費を減らした影響が出ているのだろうと思います。
対照的なのが中国勢です。プラス97%で、約2倍になっています。コロナ禍による景気後退で各国が苦しむ中、倍増しているのは驚きです。そもそもコロナ禍前から、米国に依存せずに自立するため、EVこそモビリティーの要になるグローバル戦略商材だとして、本腰を入れていたことがうかがえます。
薬:EVと言えばテスラというイメージがありますが、テスラが入っていないのはなぜでしょうか。
山内氏:ブランド力やイメージ、市場シェアと特許出願数は必ずしも一致しません。EV自体は何十年も前からあった技術ですので、EVの基本特許というのは、あるようでないのです。その中でテスラは、技術力はあるし、イノベーションも起こしていますが、どちらかというと特許(の存続期間)が終わっているものをうまく組み合わせているし、件数は少ないですが質の高い特許を持っています。質が高いがゆえに、件数をあまり取る必要がないのです。テスラが決して特許、知財で遅れているわけではありません。
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