島袋さんは、2018年に清華大学でポスドク(任期付き博士研究員)、現在は雲南大学で准教授を務めています。中国の大学で研究をしている経緯を教えて下さい。

雲南大学の島袋隼士准教授(以下、島袋氏):日本の研究開発の現場はポスト争奪戦が激しい。一般的な研究者のキャリアは博士号を取得後、数年間のポスドクで経験や実績を積み、任期がないテニュア(終身雇用権)を勝ち取ります。私の専門である天文学の分野では、終身雇用資格のポストが年間で10個あるかどうか。1つの椅子に数十人、多ければ100人以上の応募が殺到します。そんな中、基礎科学が伸びている中国がテニュアやポスドクのポジションで多くの研究者を募集しています。

島袋隼士(しまぶくろ・はやと)氏
島袋隼士(しまぶくろ・はやと)氏
2011年東北大学理学部卒業、16年名古屋大学大学院で素粒子宇宙物理学専攻を修了。フランス・パリ天文台のポスドク、中国・清華大学天文学科のポスドクを経て、19年12月から中国・雲南大学西南天文研究所の副研究員。22年12月より准教授。

最初は清華大でポスドクになりました。当初から清華大での研究を希望したのでしょうか。

島袋氏:私自身、パリ天文台でポスドクを経験しました。欧州は天文学の研究が盛んですし、その次のキャリアも欧州に残って積みたかった。実際、欧州だけでなく米国や日本などで複数のポストに応募したのですが、その中でオファーをくれたのが清華大学でした。ポスドクを2度経験したタイミングで次のポストを探していた際にも、運良く雲南大学からオファーがありました。

巨額の研究費は降ってこない

実際、中国の研究環境はよいのでしょうか。

島袋氏:清華大でポスドクとして研究を開始した際には、上司からいくつかの研究費の公募を紹介されて申し込みました。幸いなことに全部採択されたため、結果的に潤沢な研究費はありましたね。

 誤解しているかもしれませんが、巨額な研究費がもらえるわけではありません。中国では何もしなくても研究費が降ってくるわけではなく、競争原理は働いています。この点は世界と同じです。世界的に有名な研究者を招いたのであれば研究費などの待遇はいいのかもしれませんが、一般的な若手研究者は中国国内の競争を勝ち抜く必要があります。

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