中国が触手を伸ばすのは産業に直結する技術や人材だけではない。基礎科学などの人材獲得にも貪欲に動いている。雲南大学に勤務する島袋隼士准教授に、中国の研究開発環境の現状について聞いた。
■この連載ここまで
(1)中国EVの実力、特許分析で鮮明 電池制御や交換など軸にコロナ禍でも出願倍増
(2)窮地のファーウェイ、車載で反攻 中国EVの躍進支える産学官連携
(3)「驚きの投資増」米規制で打撃の中国が見つけたパワー半導体という活路
(4)「禁じ手」も辞さぬ中国の執念 山東省に複合機の一大集積地が出現
(5)ついに中国勢が工作機械で日本に「逆上陸」、超精密加工を武器に
(6)時価総額2.9兆円、中国の新興医療機器メーカー 急成長の2つの理由
(7)CATL・BYDだけじゃない 電池主要4部材で中国企業シェア7~8割の衝撃
(8)中国BOEが有機EL技術でサムスン猛追、供給過剰懸念よそに続く拡大
(9)予見不可能な中国 先駆者が編み出した3つの戦略「漏洩前提」「撤退基準」「複線化」
島袋さんは、2018年に清華大学でポスドク(任期付き博士研究員)、現在は雲南大学で准教授を務めています。中国の大学で研究をしている経緯を教えて下さい。
雲南大学の島袋隼士准教授(以下、島袋氏):日本の研究開発の現場はポスト争奪戦が激しい。一般的な研究者のキャリアは博士号を取得後、数年間のポスドクで経験や実績を積み、任期がないテニュア(終身雇用権)を勝ち取ります。私の専門である天文学の分野では、終身雇用資格のポストが年間で10個あるかどうか。1つの椅子に数十人、多ければ100人以上の応募が殺到します。そんな中、基礎科学が伸びている中国がテニュアやポスドクのポジションで多くの研究者を募集しています。

最初は清華大でポスドクになりました。当初から清華大での研究を希望したのでしょうか。
島袋氏:私自身、パリ天文台でポスドクを経験しました。欧州は天文学の研究が盛んですし、その次のキャリアも欧州に残って積みたかった。実際、欧州だけでなく米国や日本などで複数のポストに応募したのですが、その中でオファーをくれたのが清華大学でした。ポスドクを2度経験したタイミングで次のポストを探していた際にも、運良く雲南大学からオファーがありました。
巨額の研究費は降ってこない
実際、中国の研究環境はよいのでしょうか。
島袋氏:清華大でポスドクとして研究を開始した際には、上司からいくつかの研究費の公募を紹介されて申し込みました。幸いなことに全部採択されたため、結果的に潤沢な研究費はありましたね。
誤解しているかもしれませんが、巨額な研究費がもらえるわけではありません。中国では何もしなくても研究費が降ってくるわけではなく、競争原理は働いています。この点は世界と同じです。世界的に有名な研究者を招いたのであれば研究費などの待遇はいいのかもしれませんが、一般的な若手研究者は中国国内の競争を勝ち抜く必要があります。
この記事は会員登録で続きをご覧いただけます
残り1813文字 / 全文3039文字
-
【春割】日経電子版セット2カ月無料
今すぐ会員登録(無料・有料) -
会員の方はこちら
ログイン
【春割/2カ月無料】お申し込みで
人気コラム、特集記事…すべて読み放題
ウェビナー・音声コンテンツを視聴可能
バックナンバー11年分が読み放題
この記事はシリーズ「佐伯真也が見る中国経済のリアル」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?