異例の3期目を迎えた中国の習近平政権。ゼロコロナ政策は事実上崩壊し、経済成長は減速が続く。米中対立は泥沼化し、解決の糸口は見えない。そんな厳しい状況下でも、中国は技術覇権に並々ならぬ執念を燃やす。EV(電気自動車)に半導体、プリンター、工作機械、医療機器……。中国の技術力はどの分野に及び、どこまで競争力を高めたのか。「チャイノベーション」の現在地を検証する。
連載第1回は、中国メーカーが市場で存在感を高めるEVを取り上げる。EVなどの「新エネルギー車」が新車販売台数の約3割を占め、EV大国への道を突き進む中国。どこまで実力を高めたのか。知財分析から技術力を探る。

一気に押し寄せた寒波が、中国全土に冬の到来を告げた昨年12月上旬。上海市郊外にあるレストランの駐車場を訪れると、日本では目にすることのできない光景が広がっていた。同じロゴマークのSUV(多目的スポーツ車)が、5~6分間隔で“ある箱”へと吸い込まれていく。
これは中国の新興EV(電気自動車)メーカーの上海蔚来汽車(NIO)が手掛ける電池交換ステーションだ。入り口に同社のEVを停止させると、自動運転で交換ステーション内の定位置に駐車する。店員がタッチパネルを操作すると車体全体が持ち上げられ、床面に設置された電池をロボットが自動交換する。駐車から交換までの作業時間は5分程度だ。
EVの泣きどころは「満充電」になるまでに、最低でも数時間はかかるという点。万が一外出先でバッテリー切れになったら走行再開までに時間がかかるのは、地味だが大きなストレスだ。だが、所要時間5分程度で満充電の電池に交換できるなら、ガソリン車をスタンドで満タンにするのとほぼ同じ感覚だ。電池交換ステーションが拡充すれば、家でも充電できる分、むしろEVの方に優位性が出るかもしれない。
平日の午後3時から1時間で訪れたEVは10台。「1日に約100台、1週間に600~700台が訪れている」とNIOの広報担当者は話す。
電池交換式でEVの弱点解消
2014年に設立されたNIO。16年に第1弾となるスポーツ車を発表し、18年にSUV型のEVの量産に乗り出している。
同社の強みは設計や研究開発に資源を投じている点。上海など中国だけでなく、米サンノゼや英オックスフォードなど世界に研究開発拠点を設けている。22年12月には創業から8年で出荷台数が30万台を突破した。1台当たりの単価は44万元(約880万円)と高額で、デザイン性の高さもあり「中国版テスラ」の異名を持つ。
電池交換サービスは、そんなNIOが支持を集める理由の一つになっている。20年8月に車載電池最大手の中国・寧徳時代新能源科技(CATL)と、「BaaS(バッテリー・アズ・ア・サービス)」と呼ぶ交換サービスを発表した。電池分の価格が値引きされ、月額の利用料を支払う。標準走行となる75キロワット時(kWh)の電池の場合、7万元の値引きとなり、月額の利用料金は1060元(諸費用含む)となる。利便性と価格の両面の効果で、「直近では交換サービスを選ぶ購入者は過半を超えている」と、NIOの李斌CEO(最高経営責任者)は昨年12月の自社イベントで話した。
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