本社移転は象徴的な取り組みですが、社内でも服装のカジュアル化やオフィスのフリーアドレス化など、細かな部分から社風の改革を進めています。

樋口氏:私も意識していなかったのですが、女性はスーツ姿の男性に囲まれると威圧感を覚えることがあるようです。ダイバーシティーの観点からも、カジュアルになって話しかけやすい雰囲気をつくろうと考えました。

 当時は社章のバッジ1つでも、自分だけ付けていないことに対する恐怖があったくらいですから。そんなカルチャーでは、ましてや違う考えをみんなの前で言うことなんて、それ以上の難易度ですよね。

 そもそも、服装の議論をすることの時間そのものがもったいない。「このミーティングはこのドレスコードでいきましょう」なんて議論はもういい。ましてや「カジュアルフライデー」なんて、何で金曜日だけカジュアルなんでしょうか。

 オフィスや会議室での席次もそう。上司と部下が向かい合うように机が並べてあるオフィスがありますよね。部下は仕事中も、頭の中の半分くらいは上司の動きに気を取られているわけです。上司がばっと立ったら、部下もすぐにばっと立つ。それだけ生産性が下がっているのです。

 そういう社内の内部消費エネルギーをゼロにすることで、仕事に100%集中できるようになります。「今、何をやっている」、「次はこれをやる」という製造業ベースの考え方から、「どういうアウトプットを出すか」というビジネス感覚に変える。難易度は高いですが、大事なことだと考えて取り組んでいます。

(写真:的野弘路)
(写真:的野弘路)

そのような改革において、樋口社長のような経営トップの役割は何なのでしょうか。

樋口氏:改革では、リーダーのトーンセッティングが全てだと思います。どのような価値観をどの程度まで広げ、どこまでを社員個々人に任せるのか。そのトーンは、リーダーが醸し出す日々の価値観で組織に浸透していくものだと思います。

 そのためにも「ビッグピクチャー」を描かないといけません。今の状態からどのような状態に持っていきたいのかを、世の中全体を見てデザインする。そして、会社のどこかを変えようと思ったら、もう鬼気迫るぐらいの意志の強さとパッションがないと、ちょっとやそっとじゃ変わらない。

 「変われ、変われ」といろいろな会社のリーダーが言っていますが、どう変わるかを言っていないことは多いのではないでしょうか。特によくないのが「組織風土改革本部」みたいな組織に任せるパターン。「今から組織風土を変えるのは君たち若い者たちだから」と。「じゃあ、あんた何すんねん」て思いますよね(笑)。やっぱりリーダーが自分事でやらないと絶対無理です。

変革は内部人材だけでなし遂げられるものでしょうか。

樋口氏:内部の人だけだと不可能でしょう。組織の構成員が今までのままで、変われと言っても絶対変わらないですよ。やはり違う異分子が入らないと無理です。米IBMなんか、40万人の社員のうち20万人をクビにして、また新しく20万人入れるくらいですからね。

 ただ、日本企業はウエットな文化ですから、既存の社員たちにもモチベーションを持ってやってもらうためには、バランスを見極めないといけません。いかにも外資に多い、カミソリみたいな人ではなかなか難しいでしょう。投資ファンドや経営コンサルタントも、集団の中でもまれていない人が割と多い。だから現場の人たちからすると「あいつらの言うことを聞いていられるか」となる。短期で再生させてエグジットする目的ならいいと思いますが、現場の人たちと心を1つにしてやろうというタイプではないでしょう。

そういった意味では、樋口社長がもともと松下にいたということは大きいですね。

樋口氏:私もこの会社に愛着がありますし、相手がどういう感情を抱くかも想像できます。私が帰ってきたことについて「何だよ、一度辞めたくせに役員で戻ってきて」と思われるのは容易に想像がつきました。

 一方、ポジティブに考えられる社員もいるかもしれないとも思いました。「戻ってきてくれた」「変革をするけれども、現場の気持ちも分かってくれるだろう」というように。たまたまかもしれませんが、私が松下時代に経験した溶接機や情報機器の部門は、どちらもパナソニック コネクトが担当しています。

パナソニック コネクトは米ブルーヨンダーを買収して一体化を進めています。これも組織風土改革の成果といえるのでしょうか。

樋口氏:駄目になっていく会社には、ミーティングに社員がいっぱい出てくるけれど、誰が何を決めるか全く分からないし、誰も発言しないし、ミーティング後しばらくたっても何も返事が来ない、なんてことが多い。パナソニックも以前なら「遅い、決めない、もう付き合っていられない」と言われたかもしれません。しかしブルーヨンダーからは「パナソニックは非常にスピード感があって、これなら一緒に仕事ができる」と思ってもらえました。

 ブルーヨンダーとの協業で、さらなる変革を期待しています。創業者(松下幸之助氏)も蘭フィリップスから学ぼうと合弁会社をつくったことがありますが、日本企業が学ぶのは、やっぱり欧米から、外圧みたいなところがある。実際、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、ダイバーシティー、働き方、どれも欧米企業のほうが進んでいます。ビジネス面でも、SaaS型のリカーリングビジネスについてブルーヨンダーから学んでいます。そのプロセスを通じて、カルチャーをもっとダイナミックに、グローバルにしていきたいですね。

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