出向や転籍など、回り道を余儀なくされた社員が結果を残し、本体に戻る。保守本流の王道を歩む者には味わえない経験を基に組織改革のタクトを振る。混迷の時代を切り開くべく頂点に上り詰めた「はぐれ者トップ」。まずは格安航空会社(LCC)のピーチ・アビエーションを成功させて全日本空輸(ANA)のトップになった井上慎一の過去と未来を追う。

■特集のラインアップ
異端児に託す JR西、新事業の旗手はくすぶる若手集団
損保ジャパンが自動運転向け保険開発、支えた異端児の執念
「空調機には興味ない」 ダイキンで電力会社を興した反骨の技術者
「私を部長から降ろしてください」住友ゴム技術者、57歳からの挑戦
あえてスローな乗り物で街を元気に、関電の異端エリートが見る風景
NTT東でトマトやレタスを栽培 “左遷”が鍛えた肌感覚
前例踏襲の上司に盾突き、事業費を20億円減らした地方公務員
地銀の「逆張り」デジタルバンク、生み出したふくおかFGの異端児
一度はボツも再提案で実現 ぶどう栽培に挑む三井不動産社員の執念
始まりは飲み会 公務員5000人をつなぐ異色官僚が描く未来図
ピーチ生みの親はANAトップへ 傍流での成長支えた「山ごもり」(今回)
川崎重工、帝人…上り詰めた傍流社長が体得した「異端の流儀」
京都信金、「2000人対話」が育む“おせっかいバンカー”の神髄
樋口泰行氏が挑む変革「パナソニックの嫌だった社風を潰していく」
KADOKAWA夏野氏「1割の異端が起こす変革、残り9割は邪魔をするな」
日揮の脱炭素ビジネス 「Yes, and」で導く門外漢リーダー

2012年に運航を始めたLCCのピーチ・アビエーション。設立から約9年にわたりCEOを務めた井上慎一氏はANAのようなフルサービスキャリアとは常識が異なるLCCの世界で異能を育み、22年4月にANAの社長に就任した(写真:つのだよしお/アフロ)
2012年に運航を始めたLCCのピーチ・アビエーション。設立から約9年にわたりCEOを務めた井上慎一氏はANAのようなフルサービスキャリアとは常識が異なるLCCの世界で異能を育み、22年4月にANAの社長に就任した(写真:つのだよしお/アフロ)

 「新しい価値創造の種をまいていってほしい」。2020年4月、ANAホールディングス(HD)社長(現会長)の片野坂真哉がこんな思いを託し、中核事業会社のANAにある人物を招へいした。日本版LCCのビジネスモデルを確立させた「異端者」、ピーチ・アビエーション前CEO(最高経営責任者)の井上慎一がその人だ。

 三菱重工業を経て1990年にANAに入社した井上。「アジア市場を取り込むLCCのビジネスモデルをつくり上げてくれ」。中国・北京に駐在していた2008年、当時社長の山元峯生に呼び出され、こう命を受けた。香港に設けられた「アジア戦略室」のトップに就くが、部下はたった1人だけだった。

 当時のANAにとってLCCは脅威だった。特に国際線事業は本格参入から約20年を経た05年3月期に初めて黒字化を達成したばかりで、収益力の強化は道半ば。LCCとの価格競争が進めば経営体力は弱る。

 とはいえ、羽田空港と成田空港の発着枠の拡大などで海外LCCの日本参入は待ったなしだった。「攻め込まれる前に攻める」べく、ANAはLCCビジネスを自ら手掛けようと考えたわけだ。ただ井上を含め、社内にLCCビジネスの勝手を知る者はいない。顧客のカニバリ(共食い)の懸念も社内外から上がる。各所との調整に苦心し「顔がこわばっていた」とANAHD副会長の平子裕志は当時の井上の様子を振り返る。

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