1870年の電報サービス開始以来、150年にわたり日本の通信インフラを支えてきたNTTグループ。グループ社員数約33万人、952(2022年3月末時点)の連結子会社の中で異彩を放つのが、酒井大雅率いるNTTアグリテクノロジー(東京・新宿)だ。東京都調布市と山梨県中央市に農場を持ち、自らAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)を駆使したスマート農業を実践。市場にトマトやレタスを出荷している。安定したNTTグループの中で、あえて畑違いの農業事業に取り組む原点は、まるで“左遷”のような、約20年前のある子会社への出向経験だという。

■特集のラインアップ
異端児に託す JR西、新事業の旗手はくすぶる若手集団
損保ジャパンが自動運転向け保険開発、支えた異端児の執念
「空調機には興味ない」 ダイキンで電力会社を興した反骨の技術者
「私を部長から降ろしてください」住友ゴム技術者、57歳からの挑戦
あえてスローな乗り物で街を元気に、関電の異端エリートが見る風景
NTT東でトマトやレタスを栽培 “左遷”が鍛えた肌感覚(今回)
前例踏襲の上司に盾突き、事業費を20億円減らした地方公務員
地銀の「逆張り」デジタルバンク、生み出したふくおかFGの異端児
一度はボツも再提案で実現 ぶどう栽培に挑む三井不動産社員の執念
始まりは飲み会 公務員5000人をつなぐ異色官僚が描く未来図
ピーチ生みの親はANAトップへ 傍流での成長支えた「山ごもり」
川崎重工、帝人…上り詰めた傍流社長が体得した「異端の流儀」
京都信金、「2000人対話」が育む“おせっかいバンカー”の神髄
樋口泰行氏が挑む変革「パナソニックの嫌だった社風を潰していく」
KADOKAWA夏野氏「1割の異端が起こす変革、残り9割は邪魔をするな」
日揮の脱炭素ビジネス 「Yes, and」で導く門外漢リーダー

NTT東日本で農業という新事業を立ち上げた酒井大雅(写真:古立康三)
NTT東日本で農業という新事業を立ち上げた酒井大雅(写真:古立康三)

 「スーツではなく作業着をワークマンに買いに行くようになり、家族に『会社辞めたの?』と言われた」。NTT東日本の子会社、NTTアグリテクノロジーの社長を務める酒井大雅(47歳)はこう苦笑する。

 同社は、NTTグループが持つセンサーやAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)などの技術を用いて農林水産業を効率化すべく、2019年に設立された。ソリューション提供だけでなく、東京都調布市と山梨県中央市で自らトマトとレタスを生産し、市場に出荷している。酒井は、自社農場や全国の農業の現場を駆け回る日々を送っている。

 酒井は1997年、地域分社化される前のNTTに入社した。もっとも、通信に興味があったわけではない。都市開発の仕事がしたいと考え、大手不動産会社や鉄道会社を志望していたという。NTTの入社試験を受けたのは、大学の先輩からの勧め。電話局など多くの資産が遊休化していくと知り、その再開発に携わりたいとアピールして採用された。

 ところが、最初に配属されたのは都内中心部の支店。通信機器や回線の営業をするという通信事業ど真ん中の業務で、希望した都市開発には関われなかった。

 さらに2004年、同期が次々と本社へ“栄転”する中、子会社のエヌ・ティ・ティ・ブロードバンドプラットフォーム(NTTBP)への出向を命じられた。東京・東銀座の古びたビルに出社すると、事務所には数人の社員しかいない。“左遷”の2文字が頭をよぎった。

 しかし結果的には「これが自分の原点になった」と酒井は語る。

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