鉄道開業から150年。JR西日本は新型コロナウイルス禍でかつてない危機にさらされている。データを業務改革に使うだけでなく、外販で稼ぐ新事業が動き出した。「異端児」の宮崎祐丞が率いる部署に、やる気のある若手社員が続々と集いつつある。

■特集のラインアップ
異端児に託す JR西、新事業の旗手はくすぶる若手集団(今回)
損保ジャパンが自動運転向け保険開発、支えた異端児の執念
「空調機には興味ない」 ダイキンで電力会社を興した反骨の技術者
「私を部長から降ろしてください」住友ゴム技術者、57歳からの挑戦
あえてスローな乗り物で街を元気に、関電の異端エリートが見る風景
NTT東でトマトやレタスを栽培 “左遷”が鍛えた肌感覚
前例踏襲の上司に盾突き、事業費を20億円減らした地方公務員
地銀の「逆張り」デジタルバンク、生み出したふくおかFGの異端児
一度はボツも再提案で実現 ぶどう栽培に挑む三井不動産社員の執念
始まりは飲み会 公務員5000人をつなぐ異色官僚が描く未来図
ピーチ生みの親はANAトップへ 傍流での成長支えた「山ごもり」
川崎重工、帝人…上り詰めた傍流社長が体得した「異端の流儀」
京都信金、「2000人対話」が育む“おせっかいバンカー”の神髄
樋口泰行氏が挑む変革「パナソニックの嫌だった社風を潰していく」
KADOKAWA夏野氏「1割の異端が起こす変革、残り9割は邪魔をするな」
日揮の脱炭素ビジネス 「Yes, and」で導く門外漢リーダー

展示会に積極的に出展し、データを活用したソリューションを外部に売り込んでいる
展示会に積極的に出展し、データを活用したソリューションを外部に売り込んでいる

 6月末に開催された自治体向けDX(デジタルトランスフォーメーション)の展示会に、意外な企業がブースを構えた。JR西日本だ。仕掛けたのは20年11月に立ち上がったデジタルソリューション本部。新型コロナウイルス禍で本業の旅客収入が大きく落ち込む中、社内で培ったインフラの保守管理や移動データを使ったマーケティングなどを外販していこうとしているのだ。ブースに掲げられたスローガンは「BEYOND the RAILWAY」。まさに鉄道会社の枠を超えたビジネス展開は、社内から「型破りな部署」と評されている。

 主導するのはデータアナリティクス担当部長の宮崎祐丞(47歳)。「異端児」ともいえる彼を慕い、社内の異能人材が集結しつつある。17年にデータサイエンスの未経験者4人でスタートした部署は今、総勢32人にまでになった。そのうち6割弱がポスト公募制度による異動だ。

32人の異能集団を率いるようになったデータアナリティクス担当部長の宮崎祐丞(写真:菅野勝男)
32人の異能集団を率いるようになったデータアナリティクス担当部長の宮崎祐丞(写真:菅野勝男)

 「どれもこれも、よう分からん」。17年6月、技術企画部に新設された「システムチェンジⅢ」というプロジェクトの担当課長に指名された宮崎は、IT企業から送られてきた大量の提案書を前に頭を抱えていた。社内に眠るデータを活用し、線路や電気施設、車両などのメンテナンスを効率化せよとのお題を受けたが、集められた4人はデータ活用の門外漢。提案書の内容すら理解することができなかったのだ。

 困った宮崎は、データ分析を手掛けるスタートアップのギックスを立ち上げていた大学時代の友人に相談。すると「IT企業の実力を見極めたいのなら、実際に困っていることの解決策を競うコンペを開けばいい」とアドバイスをもらった。そこで、その年の12月に「北陸新幹線の車両に付着する雪の量を予測する」という公開コンペを開催。気象データから着雪量が予測できれば、雪落としに割く人員計画を立てやすくなるからだ。

 これが意外な副産物を生む。IT企業に交じって、JR西の社員数人が個人的にコンペに参加。しかも2人が上位に食い込んだのだ。1人は機械の保守スタッフ、もう1人はなんと新幹線の運転士だった。まさに社内に眠る異能。彼らの上司に掛け合い、18年に1人、19年にもう1人と引き抜いた。

 これがさらなる異能を吸引する原動力となる。

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