航続距離や車両コストなど、本格普及には様々な課題が指摘されてきた電気自動車(EV)。しかし今、消費者の現実的な選択肢となり、ガソリン価格高騰でその流れは加速している。各国では電池など関連産業でも新工場建設が相次ぎ、新たなサプライチェーン(供給網)が生まれつつある。日経ビジネスLIVEでは、世界のEV事情を深掘りする全2回のウェビナーシリーズ「なぜ世界はEVを選ぶのか」を開催した(第1回はこちら)。10月14日の第2回に登壇したのは、2018年創業のノルウェーの電池企業フレイル・バッテリー(FREYR Battery)でCTO(最高技術責任者)を務める川口竜太氏だ。豊田自動織機、日産自動車、英ダイソンなどで経験を積んだ専門家である。今回は、「欧州電池スタートアップのCTOが現地報告 巨大市場争奪の最前線」をテーマに講演した。

(構成:森脇早絵、アーカイブ動画は最終ページにあります)

大西孝弘・日経ビジネスロンドン支局長(以下、大西): 皆さん、こんばんは。本日は「欧州電池スタートアップのCTOが現地報告 巨大市場争奪の最前線」をテーマに、2018年創業のノルウェーの電池企業フレイル・バッテリーのCTOを務める川口竜太さんにご講演していただきます。川口さん、本日はよろしくお願いいたします。

川口竜太・フレイル・バッテリーCTO(以下、川口氏):皆さん、こんばんは。川口と申します。私の経歴は基本的には自動車業界でして、最初の10年間は燃料電池車(FCV)、直近の15年はEV向けのリチウム電池の開発を担当してきました。拠点は日本が中心ですけれども、米国で働いた経験も4年あり、ノルウェーに来る前の3年間は英国でEVの開発をしておりました。

 具体的には日産リーフ、日産e-NV200、それからダイソンのEV開発にかかわっておりました。現在の会社に来たのは20年2月で、当初まだ事業を立ち上げて間もない頃からCTOとしてフレイル・バッテリーの仕事に携わってきました。本日は欧州のEV電池産業の動向と、フレイル・バッテリーの紹介をさせていただきます。

ドイツ、ノルウェーでは多くのEV車種が展開されている

川口氏:まず、欧州でどんなふうにEVが売れているのか、22年9月のドイツとノルウェーのEV市場シェアのグラフを示します(図1)。

図1
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 左側はドイツです。円グラフの緑色部分がバッテリー電気自動車(BEV)、薄緑色部分がプラグインハイブリッド車(PHV)、水色部分がハイブリッド車(HV)、赤色部分がディーゼル車、オレンジ色部分がガソリン車です。ドイツでは22年9月時点で(新車販売の)30%強が充電できる車であり、うち20%がBEVです。

 下のグラフは過去2年間のシェア推移ですが、2年前はわずか数%だったEVのシェアが、今は20%近くまで伸びています。ここで重要なのは、HVも含めた電動車のシェアが全体の半分まできたという点と、ディーゼル車よりも充電できる車の方が多く出ているという点です。

 右側はノルウェーです。(新車販売のうち)9割が充電できる車です。うちBEVは77%。一方、純内燃機関車はわずか5%です。さらに下のグラフを見ますと、2年以上前からEVシェアが50%ほどになっています。