航続距離や車両コストなど、本格普及には様々な課題が指摘されてきた電気自動車(EV)。しかし今、消費者の現実的な選択肢となり、ガソリン価格高騰の影響でその流れは加速している。各国では電池など関連産業でも新工場建設が相次ぎ、新たなサプライチェーン(供給網)が生まれつつある。日経ビジネスLIVEでは世界のEV事情を深掘りするため、2人の専門家を講師に招いたウェビナーシリーズ「なぜ世界はEVを選ぶのか」(全2回)を開催した。9月30日の第1回に登壇したのは、ボストン コンサルティング グループ(BCG)マネージング・ディレクター&パートナーの滝澤琢氏だ。トヨタ自動車を経て2010年にBCGに入社し、現在、同社自動車セクターの日本リーダーを務めている。自動車業界でさまざまな事業戦略に関わってきた経験を基に、「2035年、世界の新車6割がEVに 日本が『後進国』にならない条件」をテーマに講演した。
(構成:森脇早絵、アーカイブ動画は最終ページにあります)

小原擁・日経ビジネス記者(以下、小原): 皆さん、こんばんは。本日は「なぜ世界はEVを選ぶのか」全2回のウェビナーシリーズの第1回となります。「2035年、世界の新車の6割がEVに 日本が『後進国』にならない条件」をテーマに、ボストン コンサルティング グループ(BCG)マネージング・ディレクター&パートナーの滝澤琢さんにご講演いただきます。滝澤さん、本日はよろしくお願いいたします。

滝澤琢・BCGマネージング・ディレクター&パートナー(以下、滝澤氏):よろしくお願いいたします。本日は、大きく分けて3つのお話をいたします。1つ目は、「EV普及のグローバル動向」。2つ目は、「EV普及における日本の立ち位置と諸外国との比較」。3つ目は、「日本が『後進国』とならないために、日本国および日本企業として考えるべきこと」です。
まず、EV普及のグローバル動向の話から始めます。こちらは、2030年、35年に向けて、グローバルにおける電動化の普及状況を弊社が予測した資料です(図1)。ここでは一般的な電気自動車をBEV(バッテリー電気自動車)と定義します。
ポイントは、図1の一番左側のグラフ「グローバル」にある濃い青(BEV)の部分です。30年で約4割、35年でだいたい6割。これが、世界全体におけるBEV普及の予測です。その隣に、米国、欧州、中国も載せておりますけれども、けん引役となるのは欧州です。欧州の新車販売のうち、EVが占める割合は、30年には6割、35年には9割超。米国、中国においても、30年には5割前後、35年には7割近い水準になると予測しています。
日本の予測は公表していないのですが、大きなトレンドとしては、この後、間違いなくEV普及が加速していくと見ています。30年の段階では米国ほどまではいかないと思いますが、35年にかけて米国に近い水準まで大きく加速してもおかしくありません。
この話を聞いて、「本当にそこまで普及するのか」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。次に見ていただきたいのは、OEM(自動車メーカー)が出している計画です。図2は、トヨタやホンダのような「従来OEM」、米テスラや上海蔚来汽車(NIO)のような「新興OEM」のEV普及に向けた計画を積み上げていくとどうなるのかという分析です。
こちらを見ていただくと、30年、35年にいくほどアグレッシブな計画になっていることが分かります。いろいろな規制、法規がつくられていることに加え、OEM自身も非常に積極的な動きを見せているというのが、ここ1~2年の変化です。
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