旺盛な需要にいかに応えるか。それがEVシフトの次の課題になろうとしている。既存のクルマも残しながら、構造が違うEVを高効率で生産するのは至難の業。新工場か、既存工場の転用か。多くのメーカーが決断を迫られている。

■連載のラインアップ
1.世界はなぜEVを選ぶのか 補助金・燃料高で「安い」?
2.「日本車に候補なかった」 中国、テスラオーナーの本音
3.米国、「テスラ効果」、新興勢へ 日本、軽EVは市場を変えるか
4.独SAPは社用車をEVシフト 企業の「まとめ買い」に新たな商機
5.フォードの決断 EV大量生産時代へ、もろ刃の巨額投資(今回)
6.電池再利用という金脈 ノースボルト、レッドウッドの狙い

 「(1903年の)フォード・モーターの誕生以来、そして米国製造業の歴史上、最も大きな投資となる」

 創業者ヘンリー・フォード氏のひ孫で99年から会長を務めるビル・フォード氏がこう高らかに宣言したのは、新型コロナウイルスの感染拡大さなかの2021年9月のことだ。

フォード・モーターのビル・フォード会長は2021年9月、巨大EV工場を建設するテネシー州で演説した(写真:Ford Motor Company)
フォード・モーターのビル・フォード会長は2021年9月、巨大EV工場を建設するテネシー州で演説した(写真:Ford Motor Company)

 その額、実に114億ドル(1兆5500億円)。南部テネシー州のメンフィス郊外に電気自動車(EV)の完成車工場と電池工場、さらに北隣のケンタッキー州に電池工場2つを新設し、「モデルT以来の大革命」(同社社員)を起こそうとしている。電池工場は韓国のSKイノベーションと共同でつくり、SKも44億ドルを投じる。

 テネシー州のキャンパスの名は「ブルーオーバル・シティ」。ブルーオーバルとは、楕円の中に「フォード」と書かれた同社のブルーのロゴのことだ。1908年の発売から約20年間で1500万台以上を売り上げた大ヒット商品「モデルT」以降の車両の生産を支えたミシガン州ディアボーンの工場の名が、「リバー・ルージュ・コンプレックス(通称ザ・ルージュ)」。ブルーはルージュに続く、社運をかけた大プロジェクトなのだ。

新工場の建設予定地(写真:Ford Motor Company)
新工場の建設予定地(写真:Ford Motor Company)

 ルージュの特徴は、モデルTの生産で確立したフォード流の大量生産方式。自動車業界で初めて組み立てラインにベルトコンベヤーを採用。作業者は持ち場を動かずに済み、工程を細かく分けて単純化することで誰でも生産に携われるようにした。たくさんの工程があるため、組み立てラインは長い。

 その後、トヨタ自動車で生まれたのが、トヨタ生産方式。複数工程をひとまとめにしてラインをできるだけ短くし、サプライヤーや工程間の物の受け渡しでは、必要なときに必要な分だけ次の工程に渡す「ジャスト・イン・タイム(JIT)」の考え方を確立した。最小限の在庫を高回転させて効率的に稼ぐ仕組みだ。

 ブルーの詳細は明かされていないが、同計画を統括するフォードのケル・カーンズ氏によると、フォード式とトヨタ式のいいとこ取りをしたような生産方式になるようだ。

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