航続距離や充電インフラ、車両コストなど、本格普及には様々な課題が指摘されてきたEV。しかし今、消費者の現実的な選択肢となり、ガソリン価格高騰でその流れは加速している。果たしてこれは、一部の国・消費者だけの動きなのか。それとも世界的な潮流か。日本では慎重論も根強いEVシフトがどこまで進んでいるのか。各国の消費者の声や大規模投資の現状など、「リアル」を見ていく。初回は、各国でEVの販売台数が増え続けている欧州のユーザーに聞いた。
- 世界はなぜEVを選ぶのか 補助金・燃料高で「安い」?(今回)
- 「日本車に候補なかった」 中国、テスラオーナーの本音
- 米国、「テスラ効果」、新興勢へ 日本、軽EVは市場を変えるか
- 独SAPは社用車をEVシフト 脱炭素で企業が「まとめ買い」
- フォードの決断 EV大量生産へ攻めの巨額投資
- 電池再利用という金脈 ノースボルト、レッドウッドの狙い
エネルギーインフレが襲っている欧州。今年に入りいくつかの国では、ガソリンやディーゼルの最高値が1リットル300円を超えている。
それが追い風となっているのが電気自動車(EV)だ。もともと1km走行当たりでは電気代の方が燃料代より安かった上、値上げ幅は燃料代の方が大きい。ランニングコストがエンジン車に比べて相対的に安くなり、EVの需要が伸び続けている。
欧州主要18カ国の2021年のEV販売台数は前年比64%増の119万台。22年1~3月も前年同期比59%増と勢いは衰えていない。各社が続々と新型車を発売していることもあり、もはやEVはニッチなクルマではない。
ドイツ・デュッセルドルフ近郊に住むマティアス・ビエニエクさんは21年11月に、仏ルノー傘下の低価格ブランドであるダチアのEV「ダチア・スプリング」を購入し、12月に納車で乗り始めた。

「ルーマニアで開発された中国生産の新型車を購入するリスクは理解していた。実際に乗ってみると想像以上に快適で大満足だ」と話す。
ダチア・スプリングは低価格車として知られる。提示価格は2万1000ユーロ(約290万円)だが、メーカーやドイツ政府からの補助金もあり、車両価格は1万2000ユーロ(約165万円)に値下がりした。保有していたフォルクスワーゲン(VW)「ポロ」の下取り価格が6000ユーロだったので、実質的な購入価格は6000ユーロ(約83万円)だ。
安価なEVは家族に不可欠な足となっている。ビエニエクさんの妻が片道25kmの通勤で利用するほか、ビエニエクさんも片道25kmほどのデュッセルドルフの中心地まで買い物のため週に2~3回利用する。
満足感の一つはエネルギー代の安さだ。平均すると月に2000km乗っており、5月には走行距離が合計で1万kmに達した。この間にかかった電気代はおよそ400ユーロ。ガソリンが1リットル当たり2ユーロを超えるため、以前の「ポロ」であれば4倍の1600ユーロぐらい払っていた可能性があると試算している。
また、ガソリンスタンドに並んだり、給油したりする手間や時間を節約できるメリットも大きいという。今のところ故障はなく、充電で困ったこともほとんどない。ビエニエクさんは自宅のガレージに充電器を設置して毎日充電するほか、長く走る際は充電ステーションを利用している。満充電で230キロほど走れるので、毎日の利用では困ることはないという。
ただ一度、大変な思いをしたことがある。21年12月にベルリンまで遠出したときのこと。満充電していたものの、外気温がマイナス8度で電池消費が早く、120キロ走ったところで充電のアラームが鳴り出した。もう少しで電池が切れてしまう寸前のところで充電ステーションが見つかり事なきを得たものの、他にも数台が充電を待っており、その間寒い車内でビエニエクさんと愛犬は凍えながら順番待ちを強いられた。
それ以外はほとんどEVにネガティブな面はなく、「寒い時期の遠出さえ気をつければいい」とビエニエクさんはあっけらかんとしている。次にクルマを購入する場合は、EVを選択する可能性が100%だという。
Powered by リゾーム?