人そのものをアップデートする人間拡張

 人間拡張とは何だろうか。「人間の能力を高めるシステム」や「人間の能力を補完・向上する技術」などと表現されることが多い。ベイカレントではより具体的に、「NBIC(ナノテクノロジー、バイオテクノロジー、IT、認知科学)により、人そのものをアップデートすること」と考えている。

 これまでDXをけん引してきたデジタル技術は、いわば道具の進化である。スマートフォンやクラウド、AIなどが代表的だ。これらの登場により、人々の生活は様変わりしてきた一方、使う人間の直接的な変革をもたらすことは少ない。これに対して人間拡張は、1万年以上前から変わっていないとされる人間の身体的・心理的性質を変え、“人のアップデート”といえるほどの大きなパラダイムシフトを起こすものとベイカレントは捉えている。

 人間拡張がもたらす人間のアップデートは、大きく2つに分けることができる。概念的なアップデートと実体的なアップデートである。

 概念的なアップデートとは、人間の物理的・精神的な存在の限界を取り払うことだ。人間の存在のアップデートと言い換えることもできるだろう。関連する技術としては、遠隔地にある物や人間を近くにあるかのように感じながら、それらをリアルタイムに操作する「テレイグジスタンス」や、人間が他の人間やロボットに入り込み、その感覚・体験へ没入する「ジャックイン(Jack-in)」などが挙げられる。

 実体的なアップデートとは、人間の思考・知覚・感情・身体の拡張を指す。思考のアップデートとは、人間が何かを理解したり考えたりするプロセスを拡張すること。知覚のアップデートは、人間の知覚を強化・編集したり他者と共有したりすること。感情のアップデートでは、人の心理的・精神的状態を管理する。身体のアップデートは、身体能力を高めたり健康寿命を延ばしたりすることである。

 人間拡張の確立には関連技術のさらなる進化を待つことになるが、そう遠い時期ではない。例えば、女優の綾瀬はるかさんがデバイスを腕に装着して流ちょうにピアノを演奏するNTTドコモのCM。遠隔地にいる有名ピアニストが演奏する筋肉の動きを電気信号で転送して、デバイスを装着している彼女が演奏するという設定だ。

 これは感覚の保存や他者共有という知覚のアップデートの一例だ。まだ開発中のテクノロジーだが、NTTドコモは2030年ごろの実用化を目指すとしている。思ったより間近にあると感じる人は多いのではないだろうか。

(C)2022. BayCurrent Consulting, Inc.
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