前回は、CDO(最高デジタル責任者)の役割の多様化や、成果を上げるCDOのバックグラウンド(=履歴書)について述べた。今回は履歴書の変化の意味合いをさらに深掘りするために、CDOに求められる役割のフレームワークに照らしながら、最先端のデジタル組織の形態や、それを率いるCDOの履歴書にも迫っていきたい。

フレームワークの提言に当たって、整理が必要なことが1つある。DX(デジタルトランスフォーメーション)とひとくくりにされがちなデジタル変革の分類だ。この分類を明確にしない企業が少なくない。結果、自社がCDOに求めるべき役割がはっきりしなくなる。
高度化か転換か、デジタル変革の2つのモード
ベイカレントでは、デジタル変革を「DX」と「デジタルインテグレーション(DI)」の2つに分けている。DXとDIは、ビジネスモデルの転換を伴っているかで枝分かれする。
皆さんが普段から聞き慣れているDXは、デジタル技術によるビジネスモデルの転換を指すとベイカレントでは定義している。ビジネスモデルの転換とは例えば、アパレル販売という販売に特化したレイヤープレーヤーから、商品の企画から販売までを担うインテグレーターであるSPA(製造小売業、例えばユニクロ)へ転換するなど、ビジネスモデルを別のものへと置き換えるのものだ。
対してベイカレントがDIと区分するのは、デジタル技術を活用したビジネスモデルの高度化。ビジネスモデルそのものは変えず、ビジネスモデルの構成要素をデジタル技術で磨きこむことと定義している。多くの企業がDXとして取り組んでいる事例の多くは、ベイカレント式ではDIに区分される。
具体例を見てみよう。
DIの好例としてサイバーエージェントを取り上げたい。インターネット広告などのクリエーティブ制作プロセスのAI(人工知能)による高度化だ。新しいクリエーティブの効果をAIで予測し、最も効果が出ている既存の作品を上回ったものだけを広告主に納品する。AIを使う場合と使わない場合では、期待する広告効果を上げる割合に2.6倍もの開きがあるという。あえてビジネスモデルの転換は狙わず、高度化路線で変革を進めたとしても、十分な経営インパクトの増幅を図れることをお分かりいただけるだろう。
一方、ビジネスモデルの転換を伴うDXについては、SOMPOホールディングスがビッグデータ解析を手掛ける米パランティア・テクノロジーズと日本法人を合弁で設立した取り組みが分かりやすい。既存事業を通じて収集・蓄積したリアルデータプラットフォームを提供するという事業内容は、損害保険や介護事業を主要事業とする同社にとって、新しいビジネスモデルで新たな領域での収益化を狙うものである。また、このリアルデータプラットフォームは、介護事業におけるケアプランとサプライチェーンの合理化など、既存事業を底上げする効果があるのも興味深い点である。
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