前回までクリエーターエコノミーの最新サービスやテクノロジーを概観した。今回は先進的な取り組みを踏まえて、日本企業のクリエーターエコノミーへの向き合い方を考える。クリエーターエコノミーが日本企業にとって親和性の高いビジネス市場であることは間違いない。
国内のエンターテインメント、メディア業界などでは、クリエーターとクリエーティブを「抱え込む」モデルから、「支える」モデルへと変化している。クリエーターが主役となる中、企業の関わり方に様々な変化が生まれている。

例えばソニーグループは、自社の技術やアセットを活用し、クリエーターの創作活動を支援するサービスを提供している。代表的なサービスとして、クラウド制作プラットフォームの「Creatorsʼ Cloud(クリエイターズクラウド)」がある。動画データ管理や動画編集AI(人工知能)、創作者コミュニティー(共同制作)機能などを、クリエーター向けにクラウド上で提供するサービスだ。特に動画編集AIに蓄積した膨大なデータと、先進的な技術が強みと言える。もともとは法人顧客向けサービスだった。
エイベックスも、クリエーターの制作するクリエーティブを対象としたサービスを展開している。エイベックスが2022年5月に公表した中期経営計画「avex vision 2027」では、「多様な地域・多様な分野で“愛される”IPの発掘・育成を目指す」と表明している。そのための施策の1つが「A trust(エートラスト)」と呼ぶ、ブロックチェーン(分散型台帳)を活用してデジタルコンテンツの権利を証明するNFT(非代替性トークン)事業基盤だ。A trustに合わせて、コンテンツ管理や流通システムを担う機能「AssetBank(アセットバンク)」も提供している。
エンタメ業界に続いてメディア業界も見てみよう。特に動きが目立つのは出版業界だ。閉鎖的だったクリエーターと企業の関係性を、業界全体でオープンな形へ変えていこうとする動きが目立っている。
講談社が提供する「DAYS NEO(デイズネオ)」は、特に注目すべき取り組みだ。これまで企業側が優位で、閉鎖的だったクリエーターとマンガ編集者のマッチングの機会を刷新。クリエーターと編集者の双方がそれぞれマッチングの機会を得られるプラットフォームを構築した。現在はマンガに加えて、ゲームや映画、メタバース(仮想空間)などにも対象ジャンルを拡大している。
集英社の「集英社ゲームクリエーターズCAMP(キャンプ)」も、同社が培ったクリエーターの発掘や育成ノウハウを活用し、制作からマーケティングまで個人クリエーターの活動を支援するサービスだ。自社のみならず、スポンサーやパートナー企業らと協業している点もユニークだ。
クリエーターエコノミーに対する3つのアプローチ
クリエーターエコノミーが進展した先は、クリエーターとファンが直接結びつく世の中になっていくと考えられる。クリエーターにとっては、プラットフォーマーや広告会社への依存を弱め、ファンと直接結びついて経済的に自立していくような未来が理想だ。
そんなクリエーターの理想に対し、企業はどのように向き合い、企業活動とどのようにリンクさせていけばよいのか。以下に3つのアプローチを提案したい。
① 波を受け止める
企業がクリエーターを集約するエージェントとなるアプローチである。企業(B)がエージェント(A)を介してクリエーター(C)と取引関係を結ぶ「BtoAtoC」の形を構築する。クリエーターを集約するエージェントはこの場合、従来の4マス媒体(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)を扱う広告会社と似た立ち位置となる。
② 波に乗る
クリエーターを「顧客」と捉える関わり方である。クリエーターはこれまで、安価な労働力と見なされ、不安定な収入や就労環境に置かれることが多かった。金融機関による融資やクレジットカードの与信、住宅ローンの審査などでも不利な状況に置かれていた。
クリエーターエコノミーが発展し、クリエーターの経済的自立と社会的な信用力が高まれば、クリエーターというセグメントに新たなニーズが生じ、クリエーターを自社ビジネスに取り込む余地が生まれる。
国内では、特に銀行や証券、保険などの金融業界において、職域チャネルから顧客を取り込むことが困難になっている。副業解禁の流れと相まって、クリエーターを顧客として早期に取り込むことは意義があるだろう。
③ 波を起こす
クリエーターを後押しし、クリエーターエコノミーを進展させるディスラプター(創造的破壊者)となるアプローチである。クリエーターへの側面支援にフォーカスした新規事業開発のパターンであり、様々なアプローチが考えられる。
例えば前々回紹介した、クリエーターエコノミー関連スタートアップのサービスが参考になるだろう。クリエーターの事業立ち上げや経営管理などのバックオフィスをサポートするという事業機会は増加傾向にある。例えば、経営管理サービスや採用支援サービスなど、大手企業が持つ一部の機能を切り出し、スタートアップと協業しながらクリエーターを支えていくのも選択肢の1つだ。クリエーターエコノミーの思想に近い巨大ITIT(情報技術)企業と共同で、独立したCtoC(個人間取引)プラットフォームをつくりだすニーズもあるだろう。
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