前回の記事「デジタル×価値観変容 読み解く6つのキーワード」では、デジタル時代の価値観変容について対極な関係を持つ3組(6個)のキーワードを解説した。ここからは世代ごとの変容について考察し、それぞれのビジネス機会をのぞいてみよう。今回は若年世代における価値観の変容について取り上げる。

アナログとデジタルが溶け合ったネオ・デジタルネーティブの世界

 「デジタルネーティブ」は一般にネット社会に生まれたY世代(1980~96年生まれ)以降の世代を指すが、それよりも後に誕生したZ世代(97~2010年代前半生まれ)やα世代(2010年より後の生まれ)は「ネオ・デジタルネーティブ」と呼ばれる。その大きな違いはネットに加えて、生まれた時からデジタルデバイスが身近にあることが大きな特徴である。

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 ネオ・デジタルネーティブの目の前にはアナログ・リアルの世界が広がり、画面越しにはデジタル・バーチャルの世界が広がっている。この2つの世界を通して彼らは社会とつながっている。アナログとデジタルの境界は非常に曖昧で、日常において両者は不可分なものである。

 昨今の技術進展によりアナログに似たモノ・コトをデジタルで実現できるようになってきた。象徴的な例はNFT(非代替性トークン)プロダクトだ。米NIKEのバーチャルスニーカー「Dunk Genesis CryptoKicks」は実体のない電子データであるものの、リアルのスニーカーと同じ、あるいは高い値段で購入され、ユーザー間でコレクションを見せ合う文化が生まれつつある。

 さらに、ユーザーの8割以上がネオ・デジタルネーティブとされるゲームプラットフォームの「Roblox(ロブロックス)」上にあるNIKELANDでは、アバターが着用できるバーチャルアパレルを購入して、おしゃれを楽しんでいる。既にアナログとデジタルを同質と捉える世界観が次々と誕生し始めており、ネオ・デジタルネーティブはその中で経済・社会とつながっているのである。

 彼らは、アナログとデジタルの両方に適応しながら、双方の良さを発見していく。「デジタル=進化」でなければ、「アナログ=退化」でもない。アナログとデジタルに主従関係はなく、自らの体験として同じ土俵で比較検討し、“より良い体験”を選択するのだ。

 前回解説した6個のキーワードは「デジタルを象徴する価値観」と「デジタルの“揺り戻し”による価値観」という対極な関係性を持つ3組であると解説した。後者の“揺り戻し”は非デジタル、すなわちアナログを象徴する価値観といってもいいであろう。

 Y世代以前の人たちはアナログ視点からデジタルを見るリテラシーがいや応なしに養われている。それゆえ、行き過ぎると“揺り戻し”が生じるわけだが、ネオ・デジタルネーティブにとってこの感覚はふさわしくない。スマホを操作している最中などに、突発的に「買いたい気持ち(パルス)」が湧いて、探し出してすぐに買う「パルス消費」に対して、まるで衝動買いのようだと不安視したり、店員がいる店舗でなぜスマホで口コミを見あさっているんだと疑問視したりすることができるのは、くしくもY世代以前の感覚なのである。

 では、ネオ・デジタルネーティブにとっての価値観変容はいかなるものか。デジタルか否かを重視しない彼らは、3組の価値観をそもそも対極的なものとして捉えていない。先に述べたように「体験」に着眼しているため、それを創り出すものがデジタルであろうがアナログであろうがより良いものを選ぶだけである。そのような中で、彼らは2つの価値観を“融和”させた「第3の価値観」を生み出していくと私は見ている。

好みの追求と未知との遭遇、「パーソナライズドインサイト」

 では具体的にネオ・デジタルネーティブが持つ価値観はどのように変容していくのだろうか。前回アイデンティティーについて詳細を解説したので、今回は残りの2組のキーワードについて例示しよう。

 まずは、カスタマイズとセレンディピティー(偶然による未知なる出合いや新しい発見)だ。この2つの価値観に共通する体験の1つは「モノ・コトとの出合い」である。これが融和にあたっての軸となる。

 ネオ・デジタルネーティブは、消費者と直接つながるD2C(Direct to Consumer)やサブスクリプションサービスを通して好みの追求に慣れ親しんでいる。一方で、触れたい情報が優先的に提供される「フィルターバブル」や、自分と同じ意見・考え方ばかりが集まる「エコーチェンバー」などの“過度な”カスタマイズは、長期的な体験価値が劣化することに気付き始めている。セレンディピティーがもたらす「気付き」がないからである。これまで好みだったものだけを味わい続けていては新しい好みを知り味わうことができないのだ。

 自分好みにはできるが未知の好みを逃すことが多いカスタマイズと、新しい好みが見つかるかもしれないが外れの可能性も多いセレンディピティー。両者から“良い体験”を追求していった結果の1つとして「新たな好みになっていく/していける出合い」が考えられる。

 アナログ・デジタルを駆使して、本人にとっては未知だが、好みとなるようなものを収集し選別したり編集したりすることが求められる。この第3の価値観を名付けるなら「パーソナライズドインサイト」とでもいったところであろう。

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 既にこの端緒を感じるトレンドが現れている。「ググらないZ世代」である。何かを調べたり見つけたりしたいとき、「Google」を使って検索をする(=ググる)のが常識のようになっているが、Z世代はSNS(交流サイト)検索を駆使する。「Instagram」のハッシュタグや、「TikTok」のインフルエンサーなどから求めているものや情報を探す。α世代に至っては、日ごろSNSを見ていいと思ったものをチェックして保存しておくため、検索という行為自体をあまりしないとすらいわれている。

 Z世代は機械的に検索するのではなく、他人の投稿を検索することでうまくアナログとデジタルを融合させた出合いをつくっている。「友人からのお薦め」「憧れの人の愛用品」、これらは気付かなかった好みを知る代表例であろう。もう少し一般的に言えば、本人が言語化できない好みを興味ある他者の好みから類推しているのだ。

 パーソナライズドインサイトの片りんは、Z世代の間ではやっているD2Cやサブスクリプションサービスにも多く見られる。

 例えば、アイウエアのD2Cである米Warby Parker(ワービーパーカー)は、自宅で試着できるサービス「Home Try-On」で新たな眼鏡との出合いを演出している。Web上で簡単な質問に答えるとオススメの眼鏡を提案してくれる。そこから選んだ5本が自宅に郵送され、5日間試着できる。その間、試着した写真をInstagramなどのSNSに投稿し、いいねやコメントをもらって好みの眼鏡を決める。好みのものでこびるのではなく、好みにできるものを同社は提供しているのだ。                     

 サブスクリプションサービスの代表格、動画配信サービスの「Netflix」も行動データに基づくコンテンツ推薦やサムネイルのパーソナライズから始まる出合い体験の試みを行っている。中でもオリジナルコンテンツ制作におけるAI(人工知能)活用は興味深い。同社は一部の作品で企画の初めにAIを活用している。視聴データの分析による作風のレコメンドで「ある視聴者層は作品Aのような設定でB氏が主演している作品を好む」といった具合だ。そこから先は人の手で制作することで新規性が伴う。これによって無意識に求めていた作品、親しみがあるが今までにない作品を生み出している。

居心地よい周囲との関わりを求めるデジタルコンフォート

 メタバースとリワイルディング(再野生化)に共通する体験の1つは「周囲の環境や他者との関わり」である。メタバースをはじめとしたデジタル空間の魅力はいつでも誰とでもつながることができるアクセス性だ。しかしその半面、常にオープンで周囲とのつながりを強いられる常時接続性に対して息苦しさを感じる声も出始めている。

 これまでのデジタル空間はリアルからの回避先(現実逃避)として語られがちだったが、今後は逆にデジタル空間からの回避先としてリアルに価値が出始める。Instagramへの投稿写真と異なり、インスタントカメラの「チェキ」で撮影した写真であれば、“いいね”の数は気にせず、その時その場だけを楽しめる。このプライベート感が常時接続状態のネオ・デジタルネーティブ特有の安心感をもたらす。

 トレードオフ(相反)の関係に見えるデジタルの「自由につながれるオープン感」とアナログの「安心して触れ合えるプライベート感」だが、この両者を融合させようとする取り組みは既に現れている。海外の次世代SNSにその萌芽(ほうが)を見ることができる。

 仏SNSの「BeReal(ビーリアル)」はアプリ通知が来て2分以内に写真を撮ってシェアしなければならないSNSだ。撮り直しも加工も許されない。加えて、自分が投稿しなければ友人の投稿も見ることができない。すなわち、 “今ありのままの自分”を共有し合える人の範囲にだけさらし合える仕組みとなっているのだ。

 一方、「アンチセルフィー」をコンセプトとする米国のPoparazzi(ポパラッチ)には別の制約がかかる。他人が自分を撮影した「他撮り」しか自分のアカウントに掲載できないのだ。必然的に、投稿される写真としては“誰かと一緒にいる時の自分”を共有し合うことになる。

 これらのSNSは関わる人の範囲や距離感などがInstagramのそれとは異なる。今は写真によるコミュニケーションという一部の試験的な段階ではあるものの、居心地のよい周囲との関わり方への希求は今後強まるであろう。「デジタルコンフォート」とでもいうべきこの第3の価値観は現在、一大ブームとなっているWeb3やDAO(分散型自律組織)の思想にも通ずる必然的な変容ではないかと私は見ている。

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 終わりに、ビジネスにおけるネオ・デジタルネーティブとの向き合い方について一言述べておこう。先に述べたとおり、Y世代以降がアナログ視点からデジタルを見てしまうのは回避し難い。Z世代やα世代の行動に引っ掛かるのは無理もない。しかしその違和感にこそ第3の価値観のヒントが眠っているのだ。ここで自分の価値観を説教したり、理解し得ないと匙(さじ)を投げたりしてはならない。彼らの可能性を信じ、その自由な感性を縛らずに観察することが大事だ。

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