そろそろ学校は夏休み。この夏は子どもの勉強を見るという読者の方もいらっしゃるでしょう。国語、算数、理科、社会に英語……学校の勉強には、いろんな科目がありますが、多くの人が大人になっても複雑な思いを抱く科目といえば、1つには「英語」。そして「数学」ではないでしょうか。

 学生時代を振り返って、数学が得意だったという人は少なく、苦手だった人のほうがずっと多い気がします。このコラムの編集担当(オノ)も、苦手だった一人です。しかし、子どもを育てていれば「中学受験は算数ができる子が有利」なんていう話を聞き、職場では「DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しよう」「これからはAI(人工知能)と共存していく時代だ」などと叫ばれると、やっぱり数学ができない自分はダメなんじゃないかと、コンプレックスが募ります。

 そこで今回、取材をお願いしたのは、新井紀子先生。数理論理学などを専門とする数学者ですが、2011年から、「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトを手掛け、その結果をまとめた『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)はベストセラーになりました。

 そんな新井先生による「21世紀を生き抜くための数学講義」。まずは「AI時代に必要な数学力とは何か?」をうかがいます。

この連載のテーマは「AIがますます発展し、DXがさらに進む時代に必要な数学力とは何か?」ですが、本音をぶっちゃけてしまえば、編集担当の私が、長年くすぶらせている数学コンプレックスを少しでも解消したいという気持ちが出発点です。

新井紀子さん(以下、新井):確かに大人になってから数学を学び直したいというのは、いつの時代も一定程度あるニーズのようですね。

しかし、今は、将棋だってチェスだって囲碁だって、人間の名人をAIが負かしちゃうわけで、今になって、昔解けなかった「数Ⅰ」や「数Ⅱ」の問題を解けるようになることが、抜本的な問題解決になるかというと、ちょっと違うかもなあ、という気持ちも正直あります。

 新井先生の著書『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』によると、東京大学の受験にチャレンジしたAIの「東ロボくん」が最も得意だったのは数学でしたよね。そして苦手なのが読解でした。とすれば、AIが活躍する時代に、生身の人間である私たちが鍛えるべきは読解力で、今さら数学を学ぶ意味なんてあるのかな、とも思ってしまいます。それはさすがに極論だとしても、私たちが今、学ぶべき数学は昔とは違うのかな、とか。

新井:確かにそうですね。どんな数学を学ぶべきかには、変化があります。東ロボくんは、実は東大の2次試験の数学より、センター試験の数学のほうが苦手だったんですよ。成績を見ていただくとわかるはずです。

お、そうでしたか。調べてみますね……。

新井紀子(あらい・のりこ)
新井紀子(あらい・のりこ)
東京都出身。一橋大学法学部および米イリノイ大学数学科卒業、イリノイ大学5年一貫制大学院を経て、東京工業大学より博士(理学)を取得。専門は数理論理学等だが、人工知能(AI)や地方創生など、文理融合分野で幅広く活動をしている。2011年より人工知能(AI)プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクターを務める。16年より読解力を診断する「リーディングスキルテスト」の研究開発を主導。(写真:的野弘路)

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