食料安全保障の観点から水産物の安定供給を考える上で、今後の切り札となるのが養殖業と、ゲノム編集など育成技術の発展だ。国内でも養殖業は伸びる余地が十分あるとみて、商社やベンチャー企業、飲食店などが参入している。漁獲量が減少する中、養殖への期待は高まる一方だが、緒に就いたばかりの事業も多い。餌代などが高騰する中、消費者に受け入れられる価格をどう設定するかなど手探りな面も多い。養殖の進化は漁業を救えるのか――。

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 「京都大学の(ゲノム編集技術を駆使した)『22世紀ふぐ』です。いかがですか」。8月上旬、東京・千代田にある商業施設「有楽町マルイ」の特設会場で、京都大発のスタートアップ、リージョナルフィッシュ(京都市)の東郷祥子さんが声を掛けた。

 フグを試食した30代女性は「特有のプリプリとした食感とうまみがあっておいしい。フグは冬に食べるイメージだったが、年中食べられるなら、それはそれでうれしい」と笑顔で話した。評判は上々で、1日130人が試食した日もあるという。

都内の商業施設の特設会場でゲノム編集魚の「22世紀ふぐ」を販売するリージョナルフィッシュの東郷さん
都内の商業施設の特設会場でゲノム編集魚の「22世紀ふぐ」を販売するリージョナルフィッシュの東郷さん

反対派への理解が課題

 リージョナルフィッシュは、京都大と共同開発したゲノム編集技術で養殖したフグやタイを生産・販売している。ゲノム編集は遺伝子(DNA)の一部を変え、品種改良する技術だ。タイなどでは、筋肉の成長を抑える特定のDNAを切断し、切り取った個体同士で交配させ、肉厚の品種を誕生させる。フグは出荷までの期間が約半分に短縮し、飼料利用効率が約4割改善したという。

 今はインターネットでの販売が中心だが、今後店頭販売も強化したい考え。ネットでの22世紀ふぐは1セット(2人前)が送料込みで7500円。決して安くはないが、価格に関しては「消費者の反応、需要動向を見極めている段階」(同社)だ。

ゲノム編集については、生物がもともと持つ遺伝子を働かせなくする「欠失型」の改変が行われている。この変化は自然界でも起こり得るものだが、食の安全性への懸念や生態系への影響を心配する声は根強い。
ゲノム編集については、生物がもともと持つ遺伝子を働かせなくする「欠失型」の改変が行われている。この変化は自然界でも起こり得るものだが、食の安全性への懸念や生態系への影響を心配する声は根強い。
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 そんな中、リージョナルフィッシュが研究拠点に置く京都府宮津市は、22世紀ふぐをふるさと納税の返礼品として採用した。これに対し、ゲノム編集食品に反対する同市の市民団体から、懸念の声が上がった。

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