穀物相場、再上昇予測も

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 足元の価格維持に成功しても、いつまで財源を投入するかという課題は残る。ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに小麦の国際相場は3月に急騰。米シカゴ商品取引所の先物価格は、一時的に1ブッシェル14ドル程度まで上昇して過去最高値を更新、1年前の2倍強になった。ロシアとウクライナは両国で世界の小麦輸出の3割を占めるため、戦争によって品薄になるとの懸念が広まったのだ。

 世界輸出の13%をウクライナが占めるトウモロコシも高騰した。例えばサントリーホールディングスのウイスキー「知多」は北米産トウモロコシが原料。「サプライチェーン全般のコスト悪化は今年下期にさらに厳しくなる」(大塚徳明執行役員)

 穀物相場はいったん落ち着きを取り戻したかに見えるが、予断を許さない。資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表は「米国の利上げなどもあり、投機マネーがポジション調整で先物の売りを出した」と一時休止の背景を指摘する。もう一つ、ウクライナからの穀物の輸出再開も相場鎮静化の要因となったが、決して楽観できる状態ではない。

 「今年の穀物の収穫量は半減する恐れがある」。ウクライナのゼレンスキー大統領は7月末、ツイッターにこう投稿した。同国はトルコと国連を仲介役として、南部オデーサ港からの穀物輸出再開で7月22日にロシアと合意した。ただ、米農務省は「ウクライナのほとんどの農家が、穀物を長期保存できるような空調設備を備えていない」と指摘。在庫が劣化すると新たな収穫分に頼るしかないが、前年度比41%減の1950万トンのみと予測されている。

 英王立国際問題研究所によると、戦争前、輸入小麦に占めるウクライナ産の比率はチュニジアで48%、レバノンで52%に達していた。これらの国に対してはロシアが小麦を大幅に増産して輸出機会を狙っているとされるが「今度は肥料問題によって穀物価格が高止まりしそうだ」(柴田氏)。

 米ブルッキングズ研究所によると、主要な肥料原料のカリウムはロシアとベラルーシが世界貿易の4割を握る。世界銀行によると、塩化カリウム肥料の国際相場は1年前の2.8倍だ。尿素についても世銀のジョン・バフェス上級農業エコノミストらは「歴史的な高価格帯が続く」と想定する。

 輸入小麦の取引価格は、本来ならこうした国際情勢やコスト構造を食品メーカーや国民にも知らせるシグナルだった。ここ数カ月は「外国産小麦の値上がりによって高コストだった国産小麦との価格差が縮まり、国産への引き合いは徐々に増えていた」(商社)。そして菓子類で米粉への代替需要も生じていた。あえて政策的に価格介入することは「ゆがみ」を生じさせることになりかねない。

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