(前回から読む)
中国人研究者や留学生との共同研究を通じて、研究成果が流出する懸念が高まっている。悪意を持つ人物を入国時に排除するのは難しい。大学が対応するのも困難だ。しかし、彼らを排除するのは間違いだ。日本で活動する中国当局のリクルーターから研究者や留学生を守る「シールド」をつくり、日本ファンを増やす取り組みが望まれる。東京大学の玉井克哉教授に聞いた。
(聞き手:森 永輔)
大学における共同研究を通じて、研究成果が中国やその他の国に流出する事態が懸念されています。共同研究が難しくなってきているのでしょうか。
玉井克哉・東京大学教授(以下、玉井):おっしゃる通りです。

諸外国から日本を訪れる研究者が研究成果を持ち出す悪意のある人物かどうかを入国管理局などが見抜き、排除するのは非常に難しいことです。「兄弟が3人いる」など、身内に中国共産党の幹部がいそうな場合は分かるかもしれませんが。中国人民解放軍と関係があるとされ、軍事関連技術を研究している国防7校と共同研究をするのも違法ではありません。もちろん、東京大学を含め、そういう共同研究には消極的ではあります。
しかし、悪意を持っている人は当然、その意図を隠そうとします。見抜かれることがあれば、かなりドジな人でしょう。
重要情報へのアクセス権を得ると、「当局」がやってくる
大学がその役割を果たすのも現実的ではありません。次のようなケースがあるといわれています。「留学を許可するか否かを判断する中国国内の基準点に3点足りない留学志望学生がいた。中国の公安担当者が接触し、『○○の情報を入手するのであれば合格させる。留学資金も提供する』と持ちかける」。こうした経緯で訪れる学生を大学が見抜くことは難しいことです。30点も50点もげたを履かせた学生ならば、研究者としての力量が不足していると分かるでしょうが。
さらに、当初は技術を窃取する気などなかった学生が、窃取する価値のある情報にアクセスできる立場になったのを機にリクルートされるケースがあります。例えば、論文が認められて、量子暗号のラボに配属された――。これを機に中国の当局者が接触してくるのです。「国家に忠誠を尽くす気があるか」と。断るとどうなるか。帰国を命じられるかもしれないし、中国で暮らす親戚が原因不明の交通事故に遭うかもしれません。現実にそういうことは起こらないかもしれませんが、立場の弱い留学生には大きな懸念です。
こうした留学生は、入国時は「シロ」なので見抜きようがありません。こうしたケースは数多くあるといわれています。
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