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経済安全保障推進法がカバーしていない4つのテーマを見る。前回は「データ」の保護を取り上げた。今回は、残るエコノミック・ステートクラフト(ES)の取り扱い、通信インフラの強じん化、および株主総会の招集要件について考える。

中国への高関税措置に署名したトランプ米大統領(当時)(写真:AFP/アフロ)
中国への高関税措置に署名したトランプ米大統領(当時)(写真:AFP/アフロ)

 経済安全保障推進法がカバーしておらず、今後、議論の俎上(そじょう)に上ると見込まれる第2の大テーマはエコノミック・ステートクラフト(ES)の是非だ。ESとは、経済的手段によって相手国の政策を変更させ、自国の戦略目標を達成しようとすること。ESは経済的手段による「攻め」の政策で、「守り」の経済安全保障とは別物として位置づける専門家が多い。この意味においてESの是非は、経済安全保障と並ぶ大きなテーマと言える。

 ESの代表例が経済制裁の取り扱いである。欧米諸国が2021年春以降、中国・新疆ウイグル自治区における人権侵害を理由に経済制裁を科したことは記憶に新しい。これに対して日本は、根拠となる法律がないとして慎重な姿勢を崩さなかった。

 しかし次に同様の問題が生じたときに「それで済むだろうか。済まないだろう。今後大きな問題となる」。技術と安全保障に詳しい齊藤孝祐・上智大学准教授はこう指摘する。G7(主要7カ国)など価値観を共有する国々が、その価値観や既存秩序を守るため結束を訴える場において、日本だけが知らぬふりをするのは難しい。「とはいえ、経済的手段を“攻め”に使うことに国民の合意を得るのは難易度が1つ上がる」

齊藤孝祐・上智大学准教授。専門は国際政治学、安全保障論、科学技術、イノベーション(写真:菊池くらげ)
齊藤孝祐・上智大学准教授。専門は国際政治学、安全保障論、科学技術、イノベーション(写真:菊池くらげ)

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