前回から読む) サイバー攻撃の実行グループが日本の電機やエネルギー、自動車関連の企業や防衛関連組織を攻撃している。技術情報の窃取が目的と推測される。一方、藤嶋昭氏、真鍋淑郎氏といった世界的に著名な研究者が拠点を海外に移す動きもある。日本の技術力が危機に直面している。

 アーステンシェ(Earth Tengshe)、アースフンドゥン(Earth Hundun)、ラザルス(Lazarus)グループ──。これらは、「標的型」と呼ばれるサイバー攻撃の実行グループの名称だ。セキュリティーソフト大手のトレンドマイクロによると、いずれも背後に国家が存在するとみられる。

狙われる日本の科学技術

 アーステンシェは2019年ごろから日本の電機やエネルギー、自動車関連の企業や防衛関連組織を攻撃している。技術情報の窃取が目的と推測される。

 使っている攻撃ツールをトレンドマイクロが分析したところ、過去に日本を攻撃していた「APT10」と呼ばれるグループと関係があることが分かった。米司法省が18年、APT10に関係しているとして中国人2人を訴追している。2人は中国国家安全部とも協力していた。よってアーステンシェも中国政府と関係があるとみられる。

 一方、アースフンドゥンは17年ごろから日本の政府機関や大学を攻撃し始めた。大学をターゲットにしたのは技術情報を狙ってのことだろう。20年8月に同グループに攻撃された台湾法務部調査局は背後に中国政府がいると指摘した。

 影がちらつくのは中国政府だけではない。米財務省は19年、ラザルスグループに対し、北朝鮮政府の支援を受けていると言及し制裁を科した。

 これら、背後に国家がいるとみられる攻撃グループは、政府機関だけでなく企業や大学を攻撃し、軍事・外交の情報だけでなく先端技術に関する情報を窃取、もしくは破壊しようとしているのが共通の特徴だ。すなわち、日本の技術が狙われている。

 東京大学の教授で、経済安全保障マネジメント支援機構の代表理事も務める玉井克哉氏は「日本企業は、金銭を目的とする犯罪者や、ビジネス競争力の向上を図る競合企業からの攻撃だけでなく、国家による技術窃取という新たな脅威に直面するようになった」と危機感を高める。

 トレンドマイクロが実施したある調査によると、不正アクセスなどの事件がもたらす被害の上位は、業務提携先や従業員、顧客に関するデータの漏洩が上位を占める。その中で「技術情報の漏洩」が2位につけているのは技術が狙われていることの証左と言えるだろう。

ノーベル賞級の頭脳が中国、米国へ

 技術の窃取・流出とともに懸念されるのは頭脳すなわち人材の流出だ。

 21年8月30日、ノーベル賞候補とされる藤嶋昭氏の姿が、同氏の着任を歓迎する上海理工大学のセレモニー会場にあった。同氏は「本多藤嶋効果」と呼ばれる光触媒作用を発見したことで知られるこの分野の権威。水に入れた酸化チタンに光を当てると、水が分解され酸素と水素が発生する。

ノーベル賞候補と目される藤嶋昭氏(写真:毎日新聞社/アフロ)
ノーベル賞候補と目される藤嶋昭氏(写真:毎日新聞社/アフロ)

 「この研究を1972年、『ネイチャー』誌に発表したところ、石油に代わる資源として水素が注目され、一躍脚光を浴びることとなりました」。同氏は、学長を務めた東京理科大学のサイトに掲載したエッセーでこう振り返った。オイルショックの狂騒の中でのことだった。

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