
物流大手のNIPPON EXPRESSホールディングス(NXHD)は4月からロシアを避けて中国から欧州まで物資を輸送するサービスを新たに始めた。ウクライナ侵攻後、ロシア経由ルートを不安視する顧客が増えている。このため、カザフスタンを経由してカスピ海を渡る事業継続計画(BCP)用輸送ルートとして利用を想定する。
国際貨物列車、海上輸送、鉄道やトラックと様々な輸送手段を組み合わせて、中国の西安からドイツ西部のデュイスブルクまで50~55日かかる。ロシア経由ルートは約30日だったため、輸送期間は約2倍に延びてしまうが、利用を希望する顧客は多い。「少し時間はかかっても確実に届けられるルートで運んでほしい」からだという。
「企業が物流に求める価値がこれまでのコスト、スピードだけから確実性や安全も含めて多様化している」(NXHD)。このため同社では不測の事態に備えて、世界的にBCP用輸送ルートを開発しようと検討を重ねている。
他国への依存がリスクに
グローバル資本主義の拡大によって企業が利益増大のため合理性や効率性を追求した結果、産業構造は国境をまたいだ水平分業型になりサプライチェーン(供給網)が網の目のように広がった。
だが、国際情勢は変わる。グローバル化の反動として、世界的に保護主義が広がりつつある。イデオロギーもからみ、世界経済は民主主義の西側と、権威主義国とに二分するブロック化が進む可能性がある。こうした国際環境の変化を受けて、経済安全保障という"変数"が浮上した。
上で示した世界地図にあるように、中国は陸と海のシルクロード構想「一帯一路」からなる巨大経済圏を築き上げようと周辺国への影響力を強めている。仮に中国との緊張関係が高まった場合、中国や一帯一路の周辺国を除いた供給網を組み立てることは可能なのか。中国との経済関係は深く、難しさは脱ロシアの比ではないが、代替手段の検討は避けられない。経済安保は企業にとって身近に迫った課題なのだ。

同分野が専門の同志社大学の村山裕三名誉教授は「グローバル化の時代は、他国に『依存』するのは良いことだった。市場が広がれば、ある意味で戦争も抑止できる、という考え方が主流だった」と解説する。だが、米国と中国の覇権争いが勃発し、そしてロシアによるウクライナ侵攻が決定打となり、世界各地で供給網が大混乱に陥っている。
覇権主義や権威主義、一党独裁のような国家に対して「依存することがリスクそのものになり、従来と価値観が大きく変容した」と語る。
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