ウクライナ危機を発端に目立ち始めた製造業の国内回帰の動き。ただ、野村総合研究所の藤野直明氏は「急激な円安が進んだから国内回帰で輸出を拡大する、という議論は少し乱暴だ」と指摘する。一方で、今が国内の製造業が競争力を取り戻すには最後のチャンスだとも話す。その鍵と指摘するのはやはり、国内回帰だ。
■連載予定(タイトルや回数は変わる可能性があります)
・2ナノ半導体「日本でやるしかない」、ラピダス生んだ辛酸と落胆
・ラピダスの東哲郎会長「日本は諦めすぎ、こんなものじゃない」
・安川電機、ワールド、キヤノン、「国内回帰」の大義は経済安保
・沸騰!九州シリコンアイランド、熊本のTSMC効果は4兆円
・急ピッチ人材育成、大学も高専も「半導体講座」大盛況
・拠点集約でシナジー効果、クボタ、日機装が開発力強化
・仮想空間で営業活動、平田機工、SUBARUのDXは異例づくし
・同じ屋根の下にサプライヤー、SMC、東京エレクトロンの生産改革
・進化するロボット不夜城 ファナックに学ぶ「ぶれない」国産哲学
・ファナック山口社長、「国内での開発・製造一体化が最も強い」
・「我が社の最先端工場はタイ、メキシコにある」でいいのか(今回)

ウクライナ危機を発端に急激な円安が進んだ2022年来、生産拠点の国内回帰を唱える声が目立ち始めています。
藤野直明氏(以下、藤野氏):円安になったから国内回帰を進め、輸出を拡大して日本経済の成長につなげよう、というのはマクロ的に見ればそうなのかもしれないが、経営者は円安が進んだから生産拠点を日本に全部戻すなんてできない。まず、円安がどれほど定着するかが分からない。為替は様々な要因で動く。簡単に円安が定着するとは言い切れない中で、急激に円安が進んだから国内回帰で輸出を拡大する、という議論は少し乱暴だ。
事実としてここ1~2年、大企業の日本国内の工場投資が活発になってきているのも確かだ。ただ必ずしも円安になったから国内回帰をしているわけではない。生産網の在り方を考える上で、円安は一要素ではあるが、それだけで全てが動くわけではない、というのが基本的な考え方だ。そもそも、円安によって国内の人件費が相対的に安くなった、といっても製造原価や売上原価に占める人件費の割合って何%なんですか、という話でしょう。
またもう一つ、極めて重要な事実として、日本の製造業の国内の設備投資はこの十数年、非常に低い水準だ。海外の設備投資を中心に進めてきたことが背景にある。すると当然だが、海外の設備の方がどんどんと先端化していき、国内工場の設備は劣後していく。
最先端工場が海外に…それでいい?
日本は「ものづくり大国」ではもはやなくなっていると。
この記事は会員登録で続きをご覧いただけます
残り6053文字 / 全文7175文字
-
「おすすめ」月額プランは初月無料
今すぐ会員登録(無料・有料) -
会員の方はこちら
ログイン
日経ビジネス電子版有料会員なら
人気コラム、特集…すべての記事が読み放題
ウェビナー日経ビジネスLIVEにも参加し放題
バックナンバー11年分が読み放題
この記事はシリーズ「「経済安保」国益を守る」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?