日本回帰の流れを「メード・イン・ジャパン」復権へとつなげる条件は何か。国内で集中的に生産し高収益をたたき出すファナックの工場にその答えを見た。愚直に技術革新に臨む「超実践経営」は、ただの低コスト生産を超える力をもたらす。

■連載予定(タイトルや回数は変わる可能性があります)
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約178万平方メートルの広大な森に工場群や研究施設が点在する
約178万平方メートルの広大な森に工場群や研究施設が点在する

 工作機械用のコンピューター数値制御(CNC)装置と、産業用ロボットの世界最大手、ファナックは今も昔も国内生産が大半だ。もちろん、前回まで紹介してきた国内回帰の動きとも無縁である。なぜ同社はこれまで海外生産に頼らず高収益を続けられたのか。経営哲学と戦略を分析すれば、今の国内回帰の動きを一過性、表面的で終わらせないための秘訣が見えてくる。

ロボット王国の国内集中生産

 富士山麓、山梨県忍野村の広大な森の中にあるファナックの本社工場。そびえる工場群のうち1棟に入ると、シンボルカラーの黄色をまとった約20台のロボットが踊るようにアームを動かす近未来的な光景が視界に飛び込んでくる。ロボットは工程ごとにばらばらの動きをしつつ、隣のロボットと絶妙なタイミングで部品を受け渡し、連携して加工をする。この切れ目ないリレーによって、わずか50秒で1台のサーボモーターが組み上がった。

約20台のロボットが切れ目なく連携してサーボモーターを組み立てていく
約20台のロボットが切れ目なく連携してサーボモーターを組み立てていく

 驚くのはまだ早い。シール材を塗る、部材を組み付けるなどの作業が終わるたびに、ロボットが加工した部分を撮影するのだ。カメラに向かってモーターを突き出してパシャリ。作業と同時に確認までこなす。「効率を落とさず、不良品も出さない。両立させるため試行錯誤した」。熱心にロボットの動きを解説してくれるのは、ファナックの製造統括本部長、小坂哲也専務執行役員。精緻で複雑なロボット制御から、エンジニアのあくなき探求心が伝わってくる。

 ファナックは、「ロボット王国」と呼ばれる本社工場を核に、国内で集中生産をしている。「全製品が顧客の工場の自動化に使われている。もし安い労働力を求めて海外生産をすれば、説得力がなくなってしまう」。山口賢治社長兼CEO(最高経営責任者)は、その理由をこう説く。

 国内製造で売上高営業利益率20%台半ばをたたき出せるのは、「自動化を突き詰めて製造コストを徹底的に絞っている」(小坂氏)からだ。機械加工工場ではロボットが土台の金属部品を倉庫から自ら運び、加工する。夜間、週末を含めて720時間、つまり1カ月、無人運転で稼働を続けられる「ロボット不夜城」である。

低価格で勝負しない

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