国内製造業の復活の行方を占う「九州シリコンアイランド」が熱い。半導体受託生産大手、台湾積体電路製造(TSMC)の進出で特需に沸く熊本。人材も取り合いに。サプライチェーンを築き、人材を育てられるか。現地から2回にわたり、リポートする。

 前編は、TSMCが目指す2024年末までの稼働を見込み、新工場建設や増産を狙う県内外企業や、自治体の動きを追う。後編は、半導体教育を強化する工業高等専門学校や大学の取り組みを報告する。日本経済は長期間染みついたデフレマインドを背景に、国内投資や賃金も伸びない悪循環に陥ってきた。政府が目指す賃金上昇を伴った「良いインフレ」へと転換できるか――。今の熊本はその先行モデルとなる可能性がある。

■連載予定(タイトルや回数は変わる可能性があります)
2ナノ半導体「日本でやるしかない」、ラピダス生んだ辛酸と落胆
ラピダスの東哲郎会長「日本は諦めすぎ、こんなものじゃない」
安川電機、ワールド、キヤノン、「国内回帰」の大義は経済安保
・沸騰!九州シリコンアイランド、熊本のTSMC効果は4兆円(今回)
・急ピッチ人材育成、大学も高専も「半導体講座」大盛況
・海外生産に勝つ「拠点集約」、クボタ、日機装の開発力強化
・SUBARU、平田機工、DX進めて改善や提案が異次元のスピードに
・同じ屋根の下「究極の連携生産」など、SMC、東京エレクトロン
・ファナックに学ぶ国産哲学、「完全無人化」真の狙い
・「大事なのはTCO。国内一極集中生産を続ける」。ファナック山口社長
・「製造業はかつての『日の丸半導体』に学べ」

24年末までの稼働に向けて工事が進む熊本県菊陽町のTSMC工場予定地。工場新設は大きな経済効果をもたらしている(写真=共同通信)
24年末までの稼働に向けて工事が進む熊本県菊陽町のTSMC工場予定地。工場新設は大きな経済効果をもたらしている(写真=共同通信)

 紅白色の大きなクレーンが十数基そびえ立ち、建築資材を運ぶ工事車両がせわしなく周囲を往来していた。熊本県中部・菊陽町に建設中の工場は、24時間・3交代制で建設工事が急ピッチで進む。熊本の大自然・阿蘇連山を背景に、未完成の鉄骨群は圧倒的な存在感を放っていた。

 この工場は、台湾積体電路製造(TSMC)子会社の製造拠点となる。敷地面積は約21ヘクタール(東京ドーム約4.5個分)もあり、2024年末までに稼働予定。スマートフォンなどに使われ、回路の線幅が10~20ナノ(ナノは10億分の1)メートル台のロジック半導体を月5万5000枚(直径300ミリメートルウエハー換算)量産する計画だ。

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