きな臭い世界情勢を受けて経済安全保障の意識が急速に高まり、国内で工場新設や生産能力増強のニュースが相次いでいる。こうした国内製造回帰は、長らく空洞化に苦しんできたニッポン製造業の復権への序章だ。その象徴の1つが、国内では製造できなくなっていた最先端半導体の国産化を再び目指そうとするラピダス(東京・千代田)である。同社設立を主導した東京エレクトロンの元社長である東哲郎氏に、狙いや思いを聞いた。

■連載予定(タイトルや回数は変わる可能性があります)
2ナノ半導体「日本でやるしかない」、ラピダス生んだ辛酸と落胆
・ラピダスの東哲郎会長「日本は諦めすぎ、こんなものじゃない」(今回)
・安川電機、ワールド、キヤノン、「国内回帰」の大義は経済安保
・九州シリコンアイランド、TSMC特需に沸く熊本、経済効果は4兆円
・有名ラーメン店も誘引、特需連鎖の突破力、地価上昇率全国トップに
・海外生産に勝つ「拠点集約」、クボタ、日機装の開発力強化
・SUBARU、平田機工、DX進めて改善や提案が異次元のスピードに
・同じ屋根の下「究極の連携生産」など、SMC、東京エレクトロン
・ファナックに学ぶ国産哲学、「完全無人化」真の狙い
・「大事なのはTCO。国内一極集中生産を続ける」。ファナック山口社長
・「製造業はかつての『日の丸半導体』に学べ」

 東京エレクトロンの元社長である東哲郎氏は、2022年8月のラピダス(東京・千代田)設立を主導した。集積回路の線幅が2ナノ(ナノは10億分の1)メートルと微細な最先端半導体の量産を目指す。日本がかつて撤退した領域で捲土(けんど)重来を期すのはなぜか。東氏に話を聞いた。

回路線幅2ナノメートルの最先端半導体について国産化を目指すラピダスを設立しました。決断の背景を教えてください。

東哲郎ラピダス会長(以下、東氏):皆さんの中には違和感を覚えたり、ずいぶん飛躍した話で大変ではないかと思われたりする方もいるようです。しかし、私は東京エレクトロンを率いて世界の最先端の技術にずっと接してきました。国内の半導体関連の装置産業や材料産業はどこも先頭集団を走っています。そのため、(半導体チップの)最先端ができないと思うこと自体が少し諦めすぎているのではないか、という感覚がずっとありました。なんとか再興できるならしたほうがいい、と考えていました。

1980年代に国内半導体は世界首位に立ちましたが、その後、微細化技術の開発や投資の競争に負け、ロジック半導体では最先端分野の量産から退きました。もうずいぶんと再挑戦する動きがなく、歯がゆさがあったということですか。

東氏:私が若いとき、日本の半導体は世界に羽ばたきましたが、弱体化してしまった。一方で、装置や材料、部品は曲がりなりにも世界トップの水準にずっといます。先端を知っているが故に、ギャップを強く感じるようになり、日本の半導体産業はこんなものじゃないだろう、と常々考えていました。

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