日本のインフラが危機を迎えている。戦後から高度成長期に築いた設備が老朽化し、企業活動に影響が及んでいる。補強してきた設備であっても検査が行き届かないという事態に陥っている。日本の人口が減少し、自治体の財政も不足する中でどんな手を打てるのか。連載の初回は、水に関連してこのところ相次いだ事故の実態をリポートする。

  • 連載のラインナップ(内容を変更することがあります)
  • ・老朽インフラに迫る危機 愛知の漏水、目視検査の限界露わ
  • ・大阪市の苦悩、約4000億円でも水道管1800km工事の採算合わず
  • ・水道事業にPFI活用 まず自治体の収支精査欠かせず
  • ・日立・東芝・三菱電機、点検テック巡り開発競争
  • ・自治体に残されたコンパクトシティーという選択肢

 水が不足し、発電所を停止せざるを得ない――。5月25日から、国内最大の発電会社であるJERAは碧南火力発電所(愛知県碧南市)の3号機と5号機を止めた。原因は、愛知県南部に工業用水を提供している「明治用水」の漏水事故だ。

 なぜ火力発電所が止まるのか、疑問に思われるかもしれない。発電には火力で高圧の水蒸気を発生させ、その力でタービンを回すので水が欠かせない。それ以上に、この発電所は石炭火力のため、排煙に含まれる硫黄酸化物を処理するために多量の水を使っている。

発電能力の6割がストップ

 一時は、発電所全体の最大出力の6割に相当する240万kW(設備容量)の発電設備が止まった(検査中だった2号機も含む)。中部電力の林欣吾社長は5月の記者会見で、「夏以降まで今の状態が続くと(電力は)非常に厳しい」と危機感を露わにした。170万kW相当の設備が稼働していない。応急措置で来るようになった別ルートの工業用水ではまだ足りていない。

漏水問題が長引く愛知県の明治用水。仮設ポンプを敷いても水量は不足している
漏水問題が長引く愛知県の明治用水。仮設ポンプを敷いても水量は不足している

 トヨタ自動車は井戸水も活用して生産を再開したが、かつて「日本のデンマーク」と呼ばれた同県安城市の農業は水が止まって被害を受けた。「田植えを諦めざるを得なかった農家もあり、現在も4日に1回の限定通水で、特に水圧の低い高台の農地では苦労している」(あいち中央農業協同組合)

 明治用水は、愛知県を南北に流れる矢作川の水を使おうと1880年に造られ、1957年までに頭首工(とうしゅこう、取水設備)が造成された。トヨタ本社から目と鼻の先にある現場を訪れると、川岸には仮設の管がずらり。合計162台のポンプでひっきりなしに川から水を汲み上げ、水路へと送っていた。

 ここを管轄している東海農政局だけでなく北陸農政局や国土交通省などが、ポンプ車で応援に駆けつけている。それでも6月22日時点で、農業用水と工業用水向けの取水量は1秒あたり10トンと、まだ例年に比べて5割程度しかない。

 今はとにかく電動で仮設ポンプを動かし、ポンプ車の台数もできる限りかき集めて増やすという方針で応急措置をしている。

 東海農政局は「電気代も含め、対応に費やしているコストをどう負担するかは未定。国とも協議することになるだろう」としており、予算がどう手当てされるのか分からない状況だ。

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