木原社長の成長戦略
みずほフィナンシャルグループの木原正裕新社長は2022年2月中旬、投資家相手にオンラインで初めて経営説明会を開いた。「最初に、みずほをどんな会社にしていきたいかという点で、2つほど共有したい。1点目は、社員一人ひとりが働きがいや、みずほで働く意義を感じるような会社にしたいということ。そのために人材投資についてもしっかりやっていく。2点目は、企業風土の改革。一人ひとりの気付きが、皆で共有され、組織運営に生かされる形に変えたい。そのためには経営陣が社員の思いを受け止めて、いろいろな改革に生かし、実際に社員に変化を実感してもらうことが重要だと思っている」
木原氏は岸田文雄首相の知恵袋である木原誠二官房副長官の実兄であることも話題を呼んだ。みずほFGの最高経営責任者(CEO)は3代続けて興銀出身者となったが、興銀OBの1人は「何よりも木原は性格が明るいのがいい。雰囲気を変えてくれるだろう」と期待する。
もっとも、同氏の真価はリスクコントロールにある。みずほは15年に「リスクアペタイト・フレームワーク(RAF)」という経営管理手法を導入している。自己資本比率などの国際規制をキープしながら、事業分野ごとに損失のリスク量を割り振って、最大限のリターンを得る考え方だ。08年のリーマン・ショック後に大手米銀で主流になった経営思想でもある。このRAFをみずほ社内で設計したのが木原氏だ。
銀行経営は「竹中ショック」以降、安全運転が続いて成長戦略を描けていない。RAFの経営手法を取り入れれば、リスクとリターンのバランスをより重視するようになる。自己資本比率規制を決して割り込まない範囲で「全体のリスク量」を設定して、それを個人部門、法人部門、債券部門などに割り振っていく。事業部門はそれぞれのリスク量の範囲内で投資して、自己資本利益率(ROE)を高めることが求められる。経営側は経済成長率や為替相場、株価などが悪化した場合のストレステストも実施する。想定外の損失を出さないようリスク管理を徹底しつつ、金融機関として最大限の成長投資を狙う手法といえる。
木原新体制に求められるのは、次世代の金融ビジネスの中核を明確に見定め、そこに資源を集中投下していく成長戦略づくりにほかならない。木原氏は経営資源をどこに充てていくかについて「サステナブルビジネス、そして最後はやはりDX(デジタルトランスフォーメーション)だ」と主張する。「みずほのDX戦略がどういう形で進んでいるのかを、十分に情報提供できていないという思いがある。リテールのみならず、ホールセールの領域でもいろいろなことが起きている」と話す。みずほの再生プランは、日本の金融再生そのものの絵姿になろう。
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