世界の辺境を訪ね歩くノンフィクション作家の高野秀行氏は、取材に行く前に必ずその地域の言語を学ぶことを自らに課している。これまでに学んだのはフランス語やスペイン語からコンゴやミャンマーの少数言語までと25以上。近著『語学の天才まで1億光年』では、時に教科書を自作するなど手探りで言語と格闘しながら、高野式学習法を編み出すまでが抱腹絶倒のエピソード満載で描かれている。

 高野式の一つに「必ずネイティブから学ぶ」というものがあるが、英語だけには当てはまらないと高野氏は話す。英語ばかりはネイティブから学ぶ必要はない。その言葉の背景には、グローバリゼーションと言語との深い関係が横たわっていた。

高野秀行(たかの・ひでゆき)氏
高野秀行(たかの・ひでゆき)氏
1966年東京都生まれ。早稲田大学探検部時代に執筆した『幻の怪獣・ムベンベを追え』でデビュー。タイ国立チェンマイ大学日本語科で講師を務めたのち、ノンフィクション作家に。2005年、『ワセダ三畳青春記』で第1回酒飲み書店員大賞を受賞。13年、『謎の独立国家ソマリランド』で講談社ノンフィクション賞、梅棹忠夫・山と探検文学賞を受賞。近著に『幻のアフリカ納豆を追え! そして現れた〈サピエンス納豆〉』など。(写真=竹井 俊晴)

著書では高野さんの言語学習(以下、語学)の原点として、中学生の頃に英単語を覚えるのが面倒臭いので、頻出単語に絞って覚えようと、教科書で使われている頻度でランキングを作るシーンが描かれています。楽をしたいあまりにすごく遠回りしている面白さがありますね(笑)。

高野秀行氏(以下、高野氏):遠回りですね(笑)。

楽をしようとして、結果的にすごく努力をしている。

高野氏:もういきなり核心になりますが、語学で一番大事なことってモチベーションだと思うんですよ。そして、モチベーションって受け身になると上がらないんですよね。どんなことでもそうですが、特に語学は受け身になると急にモチベーションが下がって、頭に入ってこなくなってしまう。

 受け身ではなく、主体的に取り組もうとするとああいうことになるんです。だから僕自身は努力をしたと思っていませんが、周りから見ると違うんでしょうね。

座学中心で受け身な日本の中学、高校における語学を、主体的なものに変えたということですか。

高野氏:そうですね。会話という面では座学というのはとにかく最悪なんです。座学が一番実際の言語活動から遠いものなので、実際に言語を使って生活をしたり、旅をしたり、仕事をしたりというリアルにいかに近づけるかが重要です。

言語を学ぼうとする時に必ず踏む手順はありますか。

高野氏:まずネイティブを探します。若い頃は学校に通ったこともありましたが、30歳を過ぎてからそういうことはまるでなくなりました。目的地のネイティブを探しますね。その人は誰でもいい。むしろ先生でない方がいいですね。

先生でない方がいいのはどうしてですか。

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