男性学が専門の京都産業大学の伊藤公雄教授は、「男は一家の大黒柱であるべきだ」といった根強い性別役割意識と、ジェンダー平等に向けた社会の変化の間で葛藤を抱える男性は多いと指摘する。日本のジェンダー構造が形成された背景や、経済への影響について聞いた。

■連載予定(タイトルや回数は変わる可能性があります)
(1)男性育休は怖くない、積水ハウスは4年弱で1000人以上取得
(2)中小企業でも男性育休推進の動き、サカタ製作所は取得率100%
(3)男性育休の普及阻む性別役割意識、「男の生きづらさ」の一因に
(4)「今はメンズ・クライシス」の時代 男性学の伊藤公雄・京産大教授(今回)

伊藤公雄(いとう・きみお)氏
伊藤公雄(いとう・きみお)氏
京都産業大学教授、京都大学と大阪大学の名誉教授。専門は文化社会学やジェンダー論、男性学。政府の男女共同参画政策の策定に関与。1990年代に日本で初めて「ジェンダー平等」という訳語を作った。

日本の「男は仕事、女は家事」という役割分担意識はどうやって形成されたのでしょうか。

伊藤公雄・京都産業大学教授(以下、伊藤氏):高度経済成長期の1970年代半ばから、男性の長時間労働が当たり前になったのがきっかけです。その時期に、子育てが終わった女性の非正規労働が広がり、配偶者控除や3号被保険者の制度が確立しました。夫がサラリーマンの場合、女性は年収100万~130万円程度を上限に働いた方がトクだという制度設計になりました。

 男女の賃金格差が大きい以上、男女平等で働こうという女性よりもパート勤務の女性が増えるのは自然なことです。「男性は長時間労働、女性は家事・育児+非正規労働」というジェンダー構造ができ上がり、80年代までのものづくり産業を中心とした経済成長を支えていました。

一方で、欧州は男女格差是正が進んだ「ジェンダー先進国」というイメージです。

伊藤氏:歴史的にみれば、欧州も実は家父長制が強かったのです。1804年制定のナポレオン法典で、夫による家族の管理や妻の夫への従属が決められました。意外に思われるかもしれないですが、既婚女性は夫の許可がないと働けない法律がフランスは1965年、スイスは85年まで残っていたのです。

欧州は少子化でジェンダー平等へ

 ところが、欧州では70年代に早くも少子化時代に突入しました。女性の社会参画が進んだのは、もちろん人権重視の流れもありますが、少子化の深まりの影響が大きいのも事実です。女性や移民が、サービス産業などの労働力不足を埋める役割を期待されました。日本社会が伝統的に男尊女卑で、欧州が進んでいるという考えは正しくありません。むしろ、欧州が70年代から急激にジェンダー平等に向けて方向転換したというのが正しいですね。

ジェンダー平等と、経済成長はどう結びつくのでしょうか。

伊藤氏:まず、少子化で現役世代が減り、男だけの労働の仕組みがもたなくなります。また高齢化の深まりで、少ない現役世代で高齢者福祉を支えていく必要もあります。私は90年代から、女性の社会参画を進めるために日本でも男女平等の労働環境を整備しないといけない、ジェンダー平等が必要だと提唱してきました。

 世界経済フォーラムが毎年、ジェンダーギャップ(男女格差)指数を発表しているのも、人権配慮のためだけではありません。経済成長のためにジェンダー平等が必要だという考えが世界のトレンドだからです。世界経済フォーラムのデータでも、男女格差が少ない国ほど、1人当たり国民総所得(GNI)が高い傾向にあるという結果が出ています。