
ロシアのウクライナ侵攻を機に、日本の難民制度のあり方が問われている。政府は紛争でウクライナから脱出した人々を難民条約に基づく難民ではなく、避難民として別の枠組みで受け入れている。硬直的な日本の難民認定制度はこれまでも様々な課題が指摘されてきた。2021年、日本で難民と認定された人の割合はわずか0.7%。諸外国の難民認定率はカナダの62%、英国の63%と日本とは状況が大きく異なる。なぜ日本は難民認定数が著しく少ないのか。日本に逃れてきた難民に対する支援を行う認定NPO(非営利団体)法人、難民支援協会の石川えり代表理事に話を聞いた。
日本で暮らしていると、難民問題を身近に感じることがあまりありません。そもそも難民とは、どのような人々を指すのでしょうか。
石川えり・難民支援協会代表理事(以下石川氏):難民とは「宗教や人種、政治的意見などの理由で自国にいると迫害を受けるおそれがあるため、他国に逃れた人々」を指します。日本では難民として認定されると、故郷への送還がされず、中長期的に日本で暮らすための在留資格が付与されます。今後永住や帰化を希望する際に必要な要件も緩和されます。公的な支援においても日本国民とほぼ同じ待遇を受けることができ、児童扶養手当、福祉手当を受けられるようになるほか、年金の受給資格も発生します。難民は故郷の国から保護されないためパスポートが発給されません。それに代わるものとして難民旅行証明書も交付されます。
石川さんは1999年に難民支援協会の設立に参画、同団体は母国を追われて来日した難民の支援に携わってきました。日本の場合、難民と認定されるまでにどのような手続きが必要なのでしょうか。
石川氏:難民として国を逃れなくてはならない外国人は、多くの場合まず逃れる先の国が発給するビザがないと国を出ることができません。私たちが支援する難民の方は「日本を選んだのは偶然だった」と語る人が目立ちます。なぜならビザが一番早く発給されたという理由で来日するケースが多いからです。来日後は難民として認めてもらうための審査手続きを始めるわけですが、申請手続きの際、12枚の難民申請書を提出する必要があります。出入国在留管理庁(入管庁)は、難民申請者へインタビューを行い、提出された資料などから本人が帰国すると迫害を受けるおそれがあるかを判断して、難民認定の可否を決定します。

仮にここで認定されなかった場合、「審査請求」という不服申し立てを行うことができます。「難民審査参与員」と呼ばれる、外部の専門家とされる人たちによるヒアリングと意見書提出を経て、難民認定の可否を法務大臣が判断します。それでも認められなかった場合、裁判所に提訴し、司法に審査を委ねる流れになります。
難民申請の状況ですが、2021年はコロナ禍で渡航制限が厳しかったこともあり、申請数は激減しています。申請から認定までにかかる時間は、21年は1次審査の処理に要する時間が平均で32.2カ月、不服申し立てを受理した後の処理時間も平均20.9カ月かかりました。あわせると53.1か月、4年5か月です。裁判所での審査まで進むとなると、例えば地方裁判所で3年、高等裁判所でさらに3年——といった感じになります。過去には難民認定までに計13年かかるケースもありました。
時間がかかることからも、日本の難民認定のハードルが非常に高い状況がうかがえます。そんな中、岸田文雄首相がウクライナの人々の受入れを表明し、避難民としての受入れが進んでいます。なぜ難民ではなく、避難民なのでしょうか。
石川氏:出入国在留管理庁は難民認定に関し「難民条約が定める難民の定義に基づき判断している」と説明していますが、日本はこの定義に対する解釈が厳格で、国際基準と合致していないという課題があります。
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