「日本はジェンダー問題への対応が遅れている」とよく耳にする。男女格差解消をはじめ、LGBTQ+(性的少数者)に関する制度整備も遅れている。世界では同性婚を認める国・地域が増えている一方で、日本では議論が進まず、海外に移住して結婚する人も少なくない。多様性を認められない国からは人が出て行くばかりだ。政府が動かないなら民間が動くしかない。民間から始まるジェンダー革命を数回にわたりお届けする。

「同性婚を認めないのは『違憲』」との判決が出たことを示す横断幕とレインボーフラッグを掲げる札幌の弁護団と支援者たち
「同性婚を認めないのは『違憲』」との判決が出たことを示す横断幕とレインボーフラッグを掲げる札幌の弁護団と支援者たち

 「隣に住んでいたら嫌だ」「同性婚を導入したら国を捨てる人もいると思う」――。岸田文雄首相の元秘書官による、同性婚についての発言が国内外で波紋を呼んでいる。また、岸田首相が国会答弁で言った「社会が変わってしまう」という発言も海外メディアに大きく取り上げられた。

 世界では、2001年にオランダが法律上の同性婚を認めて以降、欧州や米国大陸、オセアニアを中心に認める国・地域が増えている。19年5月には、アジアで初めて台湾での同性婚が実現した。

 一方で、日本での議論はあまり進んでいない。「同性婚を認めないのは違憲」と初めて判断が下されたのは、21年3月17日の札幌地裁判決でのことだ。発端は19年2月14日に公益社団法人のマリッジ・フォー・オール・ジャパン(東京・港)が全国で始めた「結婚の自由をすべての人に」訴訟。狙いは2つあり、「性別を問わずに結婚できるようにすること」と「同性婚できないことは違憲であると裁判所に判断してもらうこと」だった。

 これらの訴訟の焦点となるのは、憲法13条、14条、24条に反するかどうかだ。札幌地裁が違憲と認めたのは、14条の「平等原則」だ。すべての人は人種、信条、性別などで差別されないなどとする。しかし、「婚姻は両性の合意に基づいて成立する」とする憲法24条や幸福追求権を保障する13条に違反すると認めることはできないとされた。

「違憲」の理由

 14条に反するとした判決に関しては、「性的指向は人の意思によって選択・変更できない」ことなどを理由に挙げた。

 明治期に同性愛は「精神疾患」として扱われてきた背景がある。一方で、世界保健機関(WHO)は1990年5月17日の改定で国際疾病分類のリストから同性愛を除外し、日本でも同様の医学的知見が広がってきた。日本では2015年以降、国内で同性カップルを公的に認める「パートナーシップ制度」を導入する自治体が増えていることなども考慮し、札幌地裁は「婚姻によって生じる法的効果の一部を享受する法的手段を提供しないことは裁量権の範囲を超えていて、合理的根拠を欠く差別」とした。

 憲法は「同性婚は禁止」と明記しているわけではない。そのため同性婚を認めないことが「違憲」となれば、法律を変えるといった煩雑な手続きは必要ない。札幌地裁の判決は多様性を認める社会への一歩と言えるだろう。

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