江戸時代初期、若い男子のみを襲う謎の疫病が国中に広がり、男子の数は激減――。徳川将軍家の史実をベースにしながらも、男性である人物は女性として、女性である人物は男性として描かれ、将軍職も女性が継承するという斬新な設定が話題を呼んだ漫画『大奥』。1月10日からNHKドラマとして放送されている。

作者のよしながふみ氏のインタビューの後編をお届けする。話は、人とのコミュニケーションや物語の持つ役目、これから物語で描かれる人間関係などに及んだ。

前編:大奥・よしながふみ 恋愛・仕事・友人…人のつながりは多様化する
(大奥の振り返りは前編でどうぞ)

『大奥』全19巻(発行:白泉社)。史実上の男性人物は女性として、女性人物は男性として描かれている。3代家光以降、将軍職は女性が継承していく
『大奥』全19巻(発行:白泉社)。史実上の男性人物は女性として、女性人物は男性として描かれている。3代家光以降、将軍職は女性が継承していく

言語化の良さと難しさ

『逃げるは恥だが役に立つ』の夫婦のような関係性は面白いですね。

よしながふみ氏(以下、よしなが氏):今って、女性誌の特集などでも、夫婦で話し合えと書いてあるんですよね。とにかく夫とルールを決めよう、こういうときにはこうしよう、などとめちゃくちゃ細かくて。少し前までは、夫婦でこういうことをやるのは野暮(やぼ)だという時代だったのに、きちんと説明せよ、話し合え、何も言わなければ何も伝わらない、というふうになった。じわっといろいろ変わってきた。

 そのあたりを意識して少女漫画を読むと、昔に比べて、今の少女漫画に登場する男の子はとても優しくなっているんですよ。昔は、無口で一見冷たそうで、たまに優しいというような男の子が人気でした。今はとても優しいんですよ。細かなことまでしゃべってくれるんですよ。

 言語化することの重要性に今、多くの人が気付いて、それが物語にも落とし込まれていくようになったんだなと思います。

 無口な男の子は別にかっこよくないし、女の子も何も言わないけど察してねというのは魅力的ではない。どちらも思っていることがあったらきちんと口に出しなさいよ、ということになったのかなと思います。

説明的なやり取りが、今は物語として成立する時代になったということですか。

よしなが氏:はい。そうなんです。言語化しても、ちゃんと面白いということですよね。昔だったら面白くないと言われてしまったと思うんですけど。受け取る側が若干変わったからでしょうか。それこそ親子だって、話し合いなさいよ、みたいな感じなんだろうと思います。

 ただ、言語化することが重要な時代になり、言語でのやりとりが苦手な人たち、コミュニケーション能力が十分ではない人たちの苦しさも明らかになっている。こういった人たちはどうすればいいのかという問題も一緒に浮かび上がってきたかと思います。

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