交渉で重要なのは論破ではなく聴くこと
横田:確かに、「訊く」って大事ですよね。拙著『長いコトバは嫌われる』でも、オープンクエスチョン、クローズドクエスチョンなど基本的なテクニックを紹介しながら、「訊く」ことの重要さを紹介しましたが、岡本さんの新著ではより具体的な手法が紹介されています。とりわけ、「どう?」「どこ?」など英語の5W1Hをすべて「ど」から始まる質問に置き換えた、「ど×6」の無限質問のやり方は大変勉強になりました。ただ、ビジネスの現場でいざ使うとなると難しく感じる人が多いのでは?
岡本:日本人ビジネスパーソンはとにかく質問するのが苦手です。アメリカ人のあいさつはまず“How are you?(調子はどう?)”と質問から入りますが、日本人はそもそも、最近はあいさつもしないし、人に話しかけることに抵抗がある人が多いですね。
でもね、先程言ったようにみんな「話をしたい」ので「訊いてほしい」のです。
横田:でも、その「訊いてほしい」のきっかけになる質問をすることが日本人にとって難しい。何を訊いていいか分からない、なんて声が聞こえてきそうです。
岡本:とてもカンタンなんです。たった2つの質問をするだけです。
1つ目は「とっかかり質問」。例えば「最近どうですか?」、これだけです。相手からは「最近、いいことがあってね」とか「いやー、つらいっすわ」とか何かしら返事が返ってきます。いい反応がなければ、「最近あった一番楽しかったことは?」「最近食べて一番おいしかったものは?」なんて質問でもいいですね。
2つ目が「追い質問」です。1つ目の質問に返ってきた答えに対して、「どんなことがあったの?」とか、「どうしたの?」といったように、関連する質問を追っかけて訊いてあげるだけで、話が深まっていきます。次々と違う種類の質問をぶつける一問一答スタイルだと圧迫面接みたいになってしまうので、この「追い質問」は大事です。
あとはうなずいたり、相づちを打ったりするだけ。それだけで見事な「雑談」になります。ところが、相手が聞きたくもないかもしれない話をダラダラすることを「雑談」と勘違いする傾向が多いですね。だから「まず訊きましょう」(=質問しましょう)と申し上げています。
横田:「話し方」本のベストセラーを出した岡本さんが、ここまで「訊く」ことの重要性を力説するのは、何か理由があるんですか?
岡本:私自身の過去のエピソードなんですが、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)で研究員をしているとき、近所のハーバード大学ロースクールの「交渉術プログラムコース」に大枚をはたいて参加したんです。
「世界最強の交渉術講座」で私もタフネゴシエーターになる! そう意気込んでいました。横田さんなら、そこで、どんなことが学べると期待されますか?
横田:「タフネゴシエーター」になるためのディベート技術、論破できるテクニックなどを期待しちゃいます。
岡本:そうでしょ。ところが最初に教授から教えてもらったのは「交渉で大切なのは、雄弁に語ったり、相手を論破したりすることではない」ということ。
次に教えてもらったのは「相手の心を動かすコツは、とことん聴くこと」だったんです。拍子抜けして、思わず「カネ返せー」と叫んじゃいました。(笑)
ところが、これがとても勉強になりましたね。駆け引きのテクニックと同時に「アクティブリスニング」と言われる「相手の話をじっくり聴くスキル」を徹底的に教え込まれました。

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