『長いコトバは嫌われる』の著者・横田伊佐男氏と、ホンダがF1撤退直前に制作した広告でコピーを担当した電通の三島邦彦氏の特別対談第2弾。今回は「読後感」を重視する三島氏の文章術に横田氏が迫る。そして三島氏から飛び出した「理想とする広告は『土用の丑(うし)の日』」というコトバ。その理由とは?

横田伊佐男氏(以下、横田):前回は、F1撤退直前のホンダが展開したコピーの製作秘話を電通コピーライターの三島邦彦さんに興味深くお聞きしました。とりわけ、「誰に」向けて感謝を伝えるのかについて、メッセージを発するホンダと制作した電通の深い思いを感じました。
結果的に「胸アツだ」「涙が出る」の声がSNS(交流サイト)上であふれ、いわゆる「バズる」という結果になりました。これは想像していたのですか?
三島邦彦氏(以下、三島):はい、想像と言いますか、広告を見た方々の気持ちである「読後感」については、そうなるといいな、と思っていました。広告ではライバルでもあったトヨタさんに向けて謝意を伝えていますが、そのトヨタさんがTwitterで「#ありがとうホンダ」とつぶやいていただいたときには、エールを返してもらったようで、本当にうれしかったです。
横田:今回は三島さんがコピーライティングをするときの注意点やコツをうかがいたいと思います。前回「読後感」を大事にしているとおっしゃっていますが、これは、コピーを読んだ後の「読後感」から逆算して、コトバを考えているということですか?
三島:そうですね、僕はほぼそれ(=読後感)だけを考えるくらい、読後感が大事だと思っています。そのために「最初の1行」と「最後の1行」をとにかく大事にしています。
「最初の1行」は、キャッチーにして目を惹くのが目的です。
同じくらい大事なのが、「最後の1行」です。なぜなら、ここが読後感を決めるからです。ですから、「最初の1行」と同じ熱量を持って「最後の1行」を書かないといけないな、と心がけています。
横田:今回のホンダF1コピーで言うと、最初の1行は「ありがとうフェラーリ」。最後の1行は、「じゃ、最後、行ってきます。」ということですね。確かにこれら2つがセットになって、読後感が決まっています。
三島さんの「読後感がすべて」っていうのは、初めから思われていたのですか、それとも何かきっかけがあったのでしょうか?
三島: 読後感が大事だなと思ったのは、若いころに遡ります。過去広告の「名作」と「凡作」は何が違うのだろう、と調べていたら、「名作」は読後感の設定が明快かつ「最後の1行」を定型的に、例えば「私たちは○○です」みたいに終わらせていないことに気付いたからです。
最後まで気を抜かない「粘り」が「名作」と「凡作」を分かつのではないか、との仮説を自分で持ったからです。
ボディーコピーって、定型的な締め方って多いんですけど、そこで満足しないようにしないといけない。若き日の気付きが、今もそうさせています。
横田:過去の名作からの気付きが、F1 撤退広告の胸アツの読後感につながったんですね。
では、今度は「書く順番」についてお聞かせください。実は拙著『長いコトバは嫌われる』では、「最後の1行」から書き始めなさい、つまり「ケツから書け」、その後「最初の1行は最後に書け」と言っています。この順番はどう思われますか?
三島: あー……(うなずく)。
僕は、「最後にどういう気持ちになってもらえるか」の読後感を最初に考えます。その上で、書き始めるのは「最初の1行」ですね。そして、何とか頑張って「最後の1行」に落とす。そんなプロセスです。
でも、横田さんがおっしゃる通り、「最後の1行」から考えるってお聞きして、すごくいいなと思いました。最後が不安定になると、全体が不安定になりますからね。

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