量子コンピューターの開発を世界的にリードしてきたのは米IBMの研究部門、IBMリサーチだ。そのトップに立つディレクターのダリオ・ギル氏が、量子コンピューターをはじめとする先端技術がもたらす未来を熱く説く。
(聞き手:出雲井 亨)
【ラインアップ】
(1)量子技術を社会実装へ 日本の逆転の布石は打たれた
(2)量子コンピューター開発はこれから 諦めないNECと富士通
(3)量子に会社の将来を懸ける東芝 NTTも標準化争いに名乗り
(4)図解で分かる量子技術 量子コンピューターはどのように計算する?
(5)量子が分かるこの5冊 基礎知識からビジネスアイデアまで
(7)QXの現場 NECフィールディング、量子で配送コスト30%減
(8)日本惣菜協会、清水建設…DX遅れる現場で量子計算をどう生かす
(9)損保ジャパン、SMBC…金融でも量子活用 リスク分析や不正検出
(10)尾原和啓氏「未来の進化は圧倒的 量子技術どう生かすか想像を」
(11)米IBM研究トップ「量子コンピューターは新次元の発明だ」(今回)
(12)「日本の研究者の質は高い」伊藤公平慶応義塾長・量子検討WG主査
(13)ケネディ政権の伝統継ぎ米国が量子開発急ぐ、中国の後塵許されず
(14)日の丸量子技術で巻き返し、トップ研究者「技術的課題を突破する」
(15)「もうけ続ける仕組みつくれ」量子議連・大野敬太郎衆院議員
(動画)1分でサクッと分かる 量子コンピューターの世界
(動画)6月27日号特集「量子の世紀」を担当記者が解説

IBMリサーチは、量子コンピューターの開発に注力してきました。なぜですか?
IBMリサーチのダリオ・ギル・ディレクター(以下、ギル氏):量子コンピューターは、間違いなく世界で最も重要な技術の一つです。というのも、史上初めて登場した、コンピューターの全く新しいカテゴリーなのです。現在私たちの身の回りにあるコンピューターは、すべて同じ仕組みで動いていますが、量子コンピューターは根本的に異なります。
これを移動に例えてみると、人類は自転車や自動車、電車とさまざまな移動手段を生み出し、より遠くにより速く移動できるようになりました。これはある意味、従来の技術を進化させたものです。ところがある時、私たちは全く新しい移動手段を手に入れます。それが「空を飛ぶ」という方法です。これは完全に新しいカテゴリーです。空を飛ぶことにより、単にA地点からB地点に陸上を移動するだけではなく、月やほかの惑星にも到達できるようになるのです。
量子コンピューターも同様で、従来の計算をより早く実行できるだけでなく、従来のコンピューターには不可能だった、新たな課題を解けるようになるでしょう。ここが量子コンピューターの最もエキサイティングなところです。
生命から自動車まで応用範囲広く
量子コンピューターはどのように世の中を変えていくでしょうか。
ギル氏:応用分野の一つは、分子レベルの小さな世界のシミュレーションです。化学、物理、材料工学、そして長い目で見れば生命科学も対象となります。ご存じの通り、極小の世界は量子力学に支配されています。古典的コンピューターでは近似的な計算はできても、正確なシミュレーションはできません。でも量子コンピューターであれば、小さな世界を革新的な形でシミュレートし、理解できるようになるでしょう。産業面では、化学、エネルギー、自動車など、幅広いセクターが関係してきます。
もう一つの応用分野は数学の世界、例えば機械学習や暗号技術などです。ビジネス面では、通信のセキュリティーや膨大なデータの分析、組み合わせの最適化といった課題の解決において、飛躍的な進歩が期待できます。これらは半導体や人工知能(AI)と同じように、広く水平展開できる技術ですから、すべての産業セクターに影響することになります。
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