社員は弱い、「性弱説」で対策を考えよ

竹内朗(たけうち・あきら)氏 日本公認不正検査士協会理事
竹内朗(たけうち・あきら)氏 日本公認不正検査士協会理事
1990年早稲田大学法学部卒業、96年弁護士登録。証券会社法務部、弁護士事務所勤務を経て、2010年プロアクト法律事務所開設

 不祥事は完全にはなくならない。人間で例えるなら病気と同じだ。「予防医学」という考え方があるように、撲滅させるというよりも予兆を見逃さず、未然に防ぐ発想が重要だ。不祥事が減らない現状は、現場への無関心や「現場の問題は現場で解決できるはず」といった現場依存など、昭和的な経営者の思い込みが限界に来ていることを示している。

 社員が上からの圧力などで不正を犯してしまうこともある。それをなくすには「性善説」でも「性悪説」でもなく、現場社員の立場は弱いという意味の「性弱説」に立って対策を考えなければならない。

 新型コロナウイルス禍の影響によって管理や監査の精度が落ち、不正を行う「機会」が増えている印象がある。まずは、機会を減らすことに注力すべきだろう。早期発見・早期是正に力を入れることが大事で、企業は発見機能を強化する必要がある。予兆・兆候を早くキャッチしなければならない。

 鍵となるのが、リスク管理部門だ。不正防止の組織論に「3つのディフェンスラインモデル」がある。1線目がリスクオーナーである業務執行部門、2線目が1線を支援するリスク管理部門、3線目は独立した内部監査部門を指す。

 監査ばかりを強化しようとしても駄目で、まず2線を強化し、2線が「先生」となって1線を指導し、3線がその体制をモニタリングするのが本来の姿だ。

 さらに、現場の課題が中間管理層を経由して経営層にしっかり伝わる仕組みを構築し、経営資源を投入して現場の問題を解決する──。こうしたサイクルを回すことで経営に対する現場の信認が生まれ、組織の風通しも良くなるはずだ。そのために内部通報制度の充実も図るべきだ。

 ESG(環境・社会・企業統治)経営の重要性が問われる今、不正を防ぐためのガバナンス(G)を高めることが欠かせない。ここが弱い上場会社は投資家などから見放され、事業継続の危機に至る。こうした感覚を経営トップが身に付け、Tone at the top(トップの倫理的な姿勢)を実践すべきだ。(談)

人はなぜ悪いことをしてしまうのか

 数十億円の横領や会社ぐるみの不正の隠蔽はあなたにとって縁のない話かもしれない。しかし、家族や友人につく些細(ささい)な嘘や仕事上での小さなルール違反と聞けば、多くの読者にとって「悪」が他人事ではなくなるだろう。

 法律に触れる明らかな犯罪や、社会通念に反する道徳違反。人はなぜ悪さをしてしまうのだろう。悪事を働く人だけが例外的なオオカミなのか、それとも、人間は誰しもが羊の皮をかぶったオオカミなのだろうか。

「悪」は合理的な行動か?

 こうした問いに対し、犯罪は善悪ではなく合理性によって行われると主張したのが、1992年にノーベル経済学賞を受賞した米国の経済学者ゲーリー・ベッカーだ。ベッカーは「犯罪で得られる便益」と「捕まる確率」、「捕まった時の処罰」の3要素をてんびんにかけ、状況を分析した上で犯罪を行うかどうか判断する「シンプルな合理的犯罪モデル(SMORC)」を提唱した。

 この考えのベースにあるのは、人間は自分が利益を得たり不利益を被ったりしないように合理的に行動するという経済学の考え方だ。

 しかし、得られる利益が大きくとも、数億円規模の横領に手を染める人はごくわずか。その一方、捕まる確率の高いお粗末な手口にもかかわらず、犯罪を繰り返す者もいる。

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