企業や官公庁で後を絶たない不正。今回の特集「イカサマを絶つ」では、繰り返される不祥事の背景に迫り、再発防止への処方箋を探ってきた。特集を締めくくる最終回は、企業を舞台とする不正に詳しい2人の識者、危機管理システム研究学会理事の樋口晴彦氏(警察庁人事総合研究官)と、日本公認不正検査士協会理事の竹内朗氏(弁護士)の見解を紹介する。さらに番外編として、脳科学や哲学の観点から「人はなぜ悪いことをしてしまうのか」というテーマにアプローチする。
特集のラインアップ
・イカサマを絶つ はびこる不正、若手官僚も墜ちた悪の道
・川崎重工、SMBC日興… やまぬ不正、「組織ぐるみ」で企業に打撃
・売り上げの4割「架空」も 成果重視の株主資本主義、企業に重圧
・三菱電機をむしばんだ同調圧力 不祥事が暴く「日本品質」の危機
・トヨタ車検不正、第一生命19億円詐欺… 再発防止期す企業に学ぶ
・AIが暴く不正会計、監査にDXの波 東芝問題で注目の電子鑑識とは?
・不正が起こるのは経営の失敗、社員「性弱説」で対策を 識者が語る(今回)

不正が起こるのはマネジメントの失敗

「経営を良くするために何をすればいいか」との問いの答えが1つではないように、不正防止策にもこれという正解はない。企業ごとに事情は異なり、他社のまねをすればいいと発想するのは危険だ。
一般的に不正を誘引する要素はさまざまあり、複雑かつ階層的に絡み合っていて、会社ごとの「個性」がある。したがって各社が原因構造を詳細に分析し、それに応じた処方をしなくてはならない。
原因分析を掘り下げていけば、おのずと対策が浮かび上がるものだ。例えば、最近の品質不正問題の原因要素でよく見かけるのは「業務の特殊性」と「長期人事配置の弊害」だ。
業務の特殊性とは、その製品を作る技術を知る人が社内に少ないことだ。利益を稼げない傍流事業でそうした傾向が強まる。それが担当者の長期人事配置にもつながる。
例えば、免震ゴムの性能偽装が2015年に発覚したTOYO TIRE(当時は東洋ゴム工業)では、1998年から2012年まで免震ゴムの技術に詳しい担当者がほぼ1人で性能評価していた。それが不正実行を容易にし、悪事が発覚しにくい職場環境を生んだ。内部監査でも悪行は見逃された。
経営上、管理能力は貴重なリソースだ。こまごまとした分かりにくい製品分野を持つことで、その能力をいたずらに消耗させるのは良くない。成長が見込めるならまだしも、いつまでもうだつの上がらない事業は撤退を考えた方がいい。
それを言うと「売り上げに貢献している」との声が出るが、それは違う。高度成長期では「売り上げの大きさ=会社の発展力」だったが、低成長が当たり前の今は違う。規模の小さい事業を山ほど持つことは、それだけ見えづらいリスクを抱えることになる。
不祥事の原因にはマネジメントの失敗が大きく関わる。個人が起こした不正でも、なぜ組織として見抜けなかったのかを考えなければならない。経営陣は不正を起こしたことへの結果責任ではなく、不祥事が起きる環境をつくったことへの管理責任があると捉えるべきだ。(談)
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