企業や組織が不正撲滅のために打てる先手は、不正に走る動機や機会を与えないことだ。かつて不祥事に揺れた企業も組織運営の仕組みを変え、再発防止を誓っている。本気で不正と決別したいなら、従業員にコンプライアンス(法令順守)の座学を課すだけでは足りない。不正との戦いに臨むにあたり、こうした企業の取り組みから学べることは多い。

特集のラインアップ
イカサマを絶つ はびこる不正、若手官僚も墜ちた悪の道
川崎重工、SMBC日興… やまぬ不正、「組織ぐるみ」で企業に打撃
売り上げの4割「架空」も 成果重視の株主資本主義、企業に重圧
三菱電機をむしばんだ同調圧力 不祥事が暴く「日本品質」の危機
・トヨタ車検不正、第一生命19億円詐欺… 再発防止期す企業に学ぶ(今回)
・AIが暴く不正会計、監査にDXの波 東芝問題で注目の電子鑑識とは?
・不正が起こるのは経営の失敗、社員「性弱説」で対策を 識者が語る

2021年に車検不正が発覚したネッツトヨタ愛知の販売店「プラザ豊橋」(愛知県豊橋市、写真:毎日新聞社/アフロ)
2021年に車検不正が発覚したネッツトヨタ愛知の販売店「プラザ豊橋」(愛知県豊橋市、写真:毎日新聞社/アフロ)

「モノ言えぬ風土を変える」

 「皆さんからもらう書類に『エンジン不調』とだけ書いてあっても困ります。頻度は、音が出るか、どのような音か、など具体的に記してもらえるとスムーズに仕事ができます」

 4月、トヨタ自動車系列の販売店、ネッツトヨタ愛知(名古屋市)のある店舗で営業、整備、店舗スタッフら職種の違う5~6人が集まり、こんな議論が交わされた。この日は業務をどううまく回すかというオペレーションが主題だ。同社では4月から月2回、全店でこうした小規模のグループ会議を開いている。

 グループでリーダーを決め、普段は職場で会うことがほとんどない人々が同じテーブルを囲み、意見を出し合う。狙うのは、立場を越えた社員同士の対話の促進だ。出た意見はその後のリーダー会議で共有され、店舗経営にも生かされる。

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 ネッツトヨタ愛知が現場の声を重視するのにはわけがある。2021年3月、同社のプラザ豊橋(愛知県豊橋市)の従業員が、国で定めた通りの車検を実施していなかったとして中部運輸局から行政処分を受けた。最終的に10人が道路運送車両法違反などの容疑で書類送検された(その後10人は不起訴処分)。

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