「拝金主義に成り下がり」
「主文、本件控訴を棄却する」──。5月下旬、東京高等裁判所で判決を言い渡した裁判長の視線の先には、経済産業省の元キャリア職員、桜井真被告の姿があった。判決は一審・東京地裁が下した懲役2年6カ月の実刑判決を支持した。桜井被告は身じろぎせず、静かに裁判長が説明する判決内容を聞いていたが、事件の概要が詳しく説明されると、うなだれるようなしぐさも見せた。
桜井被告は、同じ経産省の元キャリアで友人のCと共謀。桜井被告らが設立したペーパーカンパニー2社を介し経産省が所管する国の新型コロナ対策の「持続化給付金」「家賃支援給付金」計約1550万円をだまし取った。Cは桜井被告と共に逮捕され、一審で懲役2年、執行猶予4年の判決を受け、その後刑が確定している。一審は一連の不正行為について、桜井被告が事件を主導したと認定。同被告には実刑判決を下した。桜井被告は「実刑は重い」と控訴していた。
「拝金主義的な人間に成り下がっていた」。裁判では自分の行いを悔い、Cを巻き込んだことへの謝罪の弁を述べていた被告。二審判決は「被告はCに給付金の申請手続きをするように指示し、犯行を主導した。犯情は相当悪質だ」と断じた。
閉廷後、桜井被告は気落ちした様子で法廷を後にした。髪は無造作に伸び、そこには輝かしい「若手エリート官僚」の面影はなかった。その後、被告と検察の双方が上訴権を放棄し、刑が確定した。
制度を知り尽くす所管官庁の官僚が、その制度や自らの知識を逆手にとって罪を犯すことは国民の行政に対する信頼を大きく傷つける行為だ。事態を重く見た経産省は桜井被告らを懲戒免職としただけでなく、監督責任を取って事務次官や直属の上司らも訓告や戒告の処分とした。
コロナ対策に群がった悪意
経済活動の停滞を引き起こした新型コロナ禍。ようやく日常を取り戻しつつある我々が目撃しているのは、この給付金詐欺を含む不正の連鎖だ。新型コロナ禍の影響を受ける事業者を支援しようと始まった政策に悪意を持つ者たちが群がっていたことが次々と明るみに出た。
6月に入ると、持続化給付金をだまし取ったとして、警視庁が東京国税局の職員らを詐欺容疑で逮捕。約200人にうその給付申請をさせ、計約2億円を詐取した疑いが持たれている。
家族ぐるみで計10億円規模の持続化給付金の不正受給に手を染めていた事件も発覚した。この事件を首謀したリーダー格と見られ、詐欺容疑で指名手配されていた谷口光弘容疑者は、逃亡先のインドネシアで現地入管当局によって不法滞在の疑いで逮捕された。

国家公務員、大企業の社員、銀行・証券マン……。コロナ禍のさなかに明るみに出た犯罪や不祥事では、一般に「勝ち組」と見なされる者たちの裏の顔も明らかになっている。経済停滞で苦しむ人々をあざ笑うかのように、人間の奥底に潜む悪の本性を浮き彫りにしている。
21年11月には、三井住友信託銀行の川崎市内の支店に勤めていた元行員が架空の預金キャンペーンを持ちかけて、顧客から預金を詐取した容疑で逮捕された。総額8億2000万円に上り、うち約3億7000万円を遊興費などに充てていたとみられている。本人は罪を認めている。
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