詐欺、不正会計、検査不正──。企業や官公庁で不祥事が後を絶たない。経済を停滞させた新型コロナウイルス禍が悪意を持つ者の暴走に拍車を掛け、内部統制強化などの取り組みをあざ笑うかのように組織を揺さぶる。将来を嘱望された若者たちも悪の道に墜(お)ちた。次々とあぶり出される人間社会の闇。世界に誇ってきた「日本品質」も危ない。組織に潜む悪行をどう食い止めればいいのか。いかさまの連鎖を断ち切る処方箋を探る。

 特集のラインアップ
 ・イカサマを絶つ はびこる不正、若手官僚も墜ちた悪の道(今回)
 ・川崎重工、SMBC日興… やまぬ不正、「組織ぐるみ」で企業に打撃
 ・売り上げの4割「架空」も 成果重視の株主資本主義、企業に重圧
 ・三菱電機をむしばんだ同調圧力 不祥事が暴く「日本品質」の危機
 ・トヨタ車検不正、第一生命19億円詐欺… 再発防止期す企業に学ぶ
 ・AIが暴く不正会計、監査にDXの波 東芝問題で注目の電子鑑識とは?
 ・不正が起こるのは経営の失敗、社員「性弱説」で対策を 識者が語る

時短協力金詐欺事件で悪用された東京都のステッカー(写真:共同通信、編集部で一部画像処理しています)
時短協力金詐欺事件で悪用された東京都のステッカー(写真:共同通信、編集部で一部画像処理しています)

 「今クライアントが100社くらい順番待ちしていますが、前金ですぐ手数料を支払えば、あなたを1番にします」。2021年2月、飲食店を営む外国籍の男性Aは、税理士事務所に勤める知人男性Bに東京都への「時短協力金」の申請に関し相談した。するとBからこう耳打ちされた。

 新型コロナウイルス禍で客足が減り、資金繰りに窮していた。翌日、約23万円を振り込んだ。実はAの店は新型コロナ前と営業スタイルをほぼ変えていなかった。「20時以降はお酒を出さず、時短営業している」との給付条件を満たしてはいなかった。

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 数日後、入金を確認したBはまず、Aに店の扉に貼る『感染防止徹底宣言』のステッカーの取得を指示。Aが早速それを入手すると、「次はステッカーを扉に貼った写真を送って」と告げた。写真を受け取ったBは都のサイトでAに代わって協力金を申請。添付する誓約書にもBがAになりすまして署名し、84万円の協力金をだまし取ったとされる。

 詐欺罪に問われたA被告の裁判で証言したBは「闇カジノにはまり数千万円の借金があった。『悪』の道に走ることに歯止めがかからなかった」と打ち明けた。

先輩や友人に誘われ……

 「簡単な手続きで給付金がもらえる。早く申請した方がいい」。20年4月、20歳の大学生は、大学の先輩からこう誘われ、架空の確定申告書と売上台帳を作成。持続化給付金の申請を行って給付金を詐取した。その後、自分がした行為が怖くなり、弁護士事務所に相談。警察署に自首し、書類送検された。

 社会人の20代女性は、「持続化給付金の申請をすれば、最大100万円の給付を受けられる。協力してほしい」と友人に頼まれた。「不正をしている」という認識はあったが、無料で多額のお金をもらえることに魅力を感じ、誘惑に負けた。

 友人から渡された必要書類を利用して給付金を申請。口座振り込まれた100万円のうち、手数料として40万円を友人に支払った。その後、友人と連絡が取れなくなり、不安になり家族に相談。警察に自首した。

 東京弁護士法人の森川弘太郎弁護士によると、「若者が『軽い気持ちでお金に目がくらみ、不正受給に関わってしまった』と相談に来るケースが最近、非常に多くなっている」。森川氏は「不正受給は詐欺罪になる刑法犯であり、給付金の100万円をだまし取る行為は本来なら実刑になるほどだ」と若者たちの安易な行為に警鐘を鳴らす。社会保険労務士などの士業が関わるケースも増えているという。

 これらは新型コロナ禍のさなかに発覚した数々の不正のごく一部にすぎない。大手企業や官公庁でも、驚くほど大胆な不正行為が相次いで摘発されている。綱紀粛正の掛け声とは裏腹に、個人や組織の暴走を止められないでいる。明るみに出た数々の不正の中で、特に人々の耳目を集めたのは、霞が関の官僚が悪事に手を染めた次の事件だっただろう。

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