食品からガソリン、資材、ユニクロのフリースまで、毎日のように目にする商品やサービスの値上げの発表。値上げの幅や金額、対象にはどのような意味が込められ、どのように決まったのか。本連載では、数円単位のミクロの動きから経済の潮流を読み解く。初回は「物価の優等生」とも呼ばれるバナナ。フィリピン政府が異例の「適正価格」要請を出した背景とは。

フィリピン産バナナが、日本で今後も手軽に手に入れられるようにするためには、フィリピン産バナナが「いつでも安い」から「日本人に長く愛されるサステナブルなバナナ」へと移行する必要がある――。
6月8日にフィリピン政府が日本のメディアに向けて発表したプレスリリースの一文だ。この日、フィリピン政府は日本の小売業界に対して、バナナの販売価格の引き上げに理解を求める要望書を提出したと発表した。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う供給網の混乱やロシアのウクライナ侵攻を受けた地政学リスクの高まりで、昨年後半からバナナの生産や輸送にかかるコストは上昇基調だ。しかし、バナナの1キロ当たり平均小売価格は、コロナ禍以降も250円前後。すでに20年、同じ価格帯での推移が続いている。
さらにさかのぼれば、1960年代と比べても価格はさほど大きく動いていない。1965年の平均小売価格は228円。63年の輸入自由化を機にフィリピンが日本市場向けバナナの大量生産体制を整備した70年代初めこそ、供給過剰で139円まで下落する局面もみられたが、その後はずっと180~250円を推移している。この間、ミカンの1キロ当たり平均小売価格は4倍、リンゴは同5倍程度上昇した。バナナの安定した価格は、卵などと並んでバナナが「物価の優等生」と呼ばれる理由にもなっている。
なぜコスト高が叫ばれてもバナナの価格は上がらないのか。その秘密を探りに、東京・文京区で70年以上続く月道青果店を訪ねた。2代目店主の答えは明快だった。「バナナってのはね、ちょっとでも高くすると買われなくなる果物なの。フィリピン産だと1房200円超えてくると売れなくなってくる。だからどの店も値上げできないんだよ」。
総務省の「家計調査年報」によれば、家計ごとの年間バナナ消費量は19.81キロ(21年)。果物全体の消費量71.41キロの約28%を占める。これだけ見ると、日本人がバナナ好きなのは明白だ。
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