11月22日、政府の「新しい資本主義」の柱になる「スタートアップ育成5か年計画に向けた提言」が、自民党(「自由民主党新しい資本主義実行本部 スタートアップ政策に関する小委員会」)から岸田文雄首相、後藤茂之経財相に申し入れられた。

 提言は以下の10項目からなり「5年後には日本のVC(ベンチャーキャピタル)投資を現在の10倍にする」など、日本が「スタートアップ立国」に大きく舵(かじ)を切るのだという意気込みを感じさせる。

  1. 大胆かつ具体的な目標設定とスタートアップ政策の体制強化
  2. スタートアップへの人の流れの強化 ~起業家の輩出・育成のための基盤の抜本強化
  3. スタートアップへの資金の流れの強化 ~多様な主体からの資金供給拡大
  4. Deep-techシーズの創出強化 ~大学を核としたエコシステム形成
  5. Web3で世界をリードする
  6. インパクトスタートアップ(社会的起業)のエコシステム整備
  7. 「調達」を増やす ~政府・地方自治体の調達におけるスタートアップ活用
  8. グローバルに資本・人材を呼び込む ~スタートアップのグローバル競争力の強化
  9. 「出口」を増やす ~「出口」戦略の多様化
  10. 地方におけるスタートアップ創出支援の強化

 これを受け、休み明けの11月24日、内閣官房の「新しい資本主義実現本部事務局」が「スタートアップ育成5か年計画(案)」(25ページ)と「スタートアップ育成5か年計画ロードマップ(案)」(18ページ)を配布した。

 スタートアップ育成5か年計画や、それに至る分科会の議事録などを見ると、実務に携わる起業家や投資家などが、自分の体験などを通じて課題と感じていることを取り込んでまとめられている。25ページの計画案には、全部で49の検討項目が列記されている。

■5年後の主な目標
・国内のベンチャー投資額を2021年の10倍超の10兆円規模にする(2021年は8200億円)
・時価総額1000億円以上の未上場企業である「ユニコーン」を100社、創出する
・スタートアップを10万社、創出する

 第一の柱:スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築(12項目)
 第二の柱:スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化(28項目)
 第三の柱:オープンイノベーションの推進(9項目)

 多くの項目で、国内外の日本人起業家やVCなどの投資家の意見が取りまとめられており、特に制度面で課題を抱えていた諸問題がこれを機に改善されるのであれば、スタートアップにとっては朗報といえるだろう。

 例えば、スタートアップを悩ませる資金調達にまつわる仕組みや、ストックオプション(株式購入権)などの諸制度は、米国の事例に明るい専門家の意見がかなり取り込まれている。これを機に、スタートアップにとって使いやすいものになるように制度化されることを期待できそうだ。

ディープテック立国を目指す日本政府

 日本が強化する技術分野として挙げられているのが、これからの基幹技術として注目されているWeb3(ウェブスリー)である。Web3はインターネットの利用者がデータを共有・管理しながら運用する分散型ウェブサービスのことで、現在、あらゆるデータを寡占している米IT大手企業へのアンチテーゼといわれている。Web3分野のスタートアップが日本から流出している現状を踏まえて、制度検討などが盛り込まれている。この分野に関しては、他国が技術進歩の陰で後手に回っており、日本政府としてはこれに先鞭(せんべん)をつけたい思惑があるようだ。